[No.37] いまの新生児の平均寿命は100歳を超える、定年が80歳となり長寿社会は幸せなのか

米国の新生児の半数は寿命が100歳を超える。また、2050年までに、米国の平均寿命は100歳を超える。

長寿に伴い、定年が80歳となり、勤労年数が60年を超える時代に突入した。長生きできるのは幸せであるが、60年間仕事を続けるのは苦痛である。また、現行の社会制度は平均寿命が60歳の時に制定されたもので、長寿社会に沿った制度設計が求められる。

​米国は100歳時代を迎え、ワークライフバランスの議論が始まった。

出典: Stanford Center on Longevity

100歳時代に備える

スタンフォード大学長寿研究所「Stanford Center on Longevity」は、報告書「New Map of Life」を公開し、来るべき長寿社会への備えを提言した。

新生児の半数の寿命が100歳を超え、また、2050年までに平均寿命が100歳となり、米国は長寿社会に突入した。
報告書は、今の社会システムは、人生100年時代にそぐわないもので、新しいライフ設計「New Map of Life」が必要であると提言している。

​報告書は、シニア社会をサポートする方策も必要であるが、100歳以上の長寿者(centenarian)に投資すると、そのリターンは大きいとしている。

80歳まで仕事をする社会

報告書は、長寿社会になると、ワークスタイルを見直す必要があるとしている。

​現在の定年制度は平均寿命が60歳の時に構築されたもので、平均寿命が100歳を超えると、この制度は実情に合わない。
​実際、平均寿命が100歳になると、80歳まで仕事をすることが可能となり、人生設計が劇的に変わる。

米国の雇用制度

米国では定年退職する平均年齢は62歳で(下のグラフ、青色の線)、大学卒業後に就職すると、勤労年数は40年となる。

社員は会社の規定により退職するケースもあるが、資金が十分貯まれば引退するケースが殆どである。
このため、人生100年時代を迎え、80歳まで働くとすると、勤務年数は60年となり、今より労働年数が20年増えることになる。

出典: Gallup

米国の年金制度

因みに、米国の社会保障は「Social Security」と呼ばれ、年金の受給開始年齢は67歳となる。

年金制度は1930年代に運用が始まり、その当時、受給開始年齢は65歳であった。その後、66歳に引き上げられ、現在(1960年生まれ以降)は67歳となっている(下のテーブル、左側)。

​一方、上述の通り、米国の引退年齢の平均は62歳で、社員は生活資金を企業年金プラン(401(k))や個人年金プラン(Individual Retirement Arrangement、IRA)などで補っている。
また、米国では、引退してから契約社員として働くケースは極めて少ない。
​引退後は、仕事から完全に開放され、プライベートな生活となる。

出典: Social Security Administration

子育てや介護の時間

報告書は、労働年数が長くなり、柔軟なワークスタイルを取り入れることを提言している。

これは「Work More Years with More Flexibility」と呼ばれ、今のスタイルでプラス20年働くのではなく、個人のライフプランに合わせた働き方をデザインする。

​例えば、子育てで時間が必要な社員は、この期間は働く時間を減らす。また、両親の介護で時間を要する社員は、同様に、労働時間を短縮したワークスタイルを選択する。

柔軟なワークスタイル

米国社員は平均で、週40時間労働(一日8時間労働)をこなす。
この時間の中で、子育てや介護の時間を捻出し、仕事とプライベートの両立で苦しんでいる。

労働年数が長くなると、一律に週40時間労働を適用するのではなく、プライベートな時間が必要な時は、労働時間数を半減するなど、柔軟な仕組みを提言している。

​また、勤務形態も在宅勤務など、フレキシブルなスタイルの導入を求めている。

教育システムの改革

人生100年時代には、教育システムを変える必要があると提言している。
生まれてから幼稚園までの期間は、認知力や感性の教育が重要で、これらのスキルを獲得することで、健康な人生を送ることができる。

また、学校教育についていけず落第した生徒については、再度教育を受ける仕組みが必要としている。
​更に、大学までの一律な教育の他に、社会に出て人生のそれぞれの節目で、必要な教育を受ける仕組みも必要としている。

企業はどう反応するか

スタンフォード大学の提言に対し、雇用側の企業はコメントを発表していないが、これを契機に議論が始まる。

企業としては、柔軟な勤務体系を取り入れると、社員にかかるコストが上昇し、人件費の負担が増える。
一方、社員がフレキシブルに勤務できると、生産性が高まるメリットが期待される。

​これらプラス面とマイナス面を考慮し、勤務体系の見直しを進めることになる。

出典: Stanford Center on Longevity

長寿社会に向けた議論

長寿社会に備えて社会制度を見直すことは、政府や企業だけの責任ではなく、医療機関や保険会社など、関係者が多岐にわたる。

国を挙げた改革プロジェクトとなる。報告書は、今の新生児への投資を通し、長寿の恩恵を受けることができる社会の構築が必要としている。

​日本は既に長寿社会であるが、米国を含め、世界各国で健康寿命が延びている。
2022年は、長寿社会に向けた制度設計についての議論が始まる年となる。