[No.89]米国政府は消費者のプライバシー保護を強化する方向に転換、FTCはEpic Gamesに5億2000万ドルの制裁金を科す、メタバースで子供を危険から守ることが課題
米国政府はAIやメタバースなど高度なテクノロジーから消費者の権利を守る方向に舵を切った。
アメリカ連邦取引委員会(Federal Trade Commission、FTC)は、ゲーム開発会社Epic Gamesが、子供のプライバシーを侵害したとして、過去最大額の制裁金を科した。
バイデン政権は、国民をAIの危険性から守るための章典「AI Bill of Rights」を発表した。
米国政府は、自国の先進技術を優先する政策を取ってきたが、今年は国民の権利を守ることを重点とする方向に政策を転換した。
Epic Gamesへの制裁金
FTCは、人気ビデオゲーム「Fortnite」(上の写真)の制作者であるEpic Gamesが、児童オンライン保護法「Children’s Online Privacy Protection Act (COPPA)」に違反したとして、5億2000万ドルの制裁金を科した。
COPPAとは1998年に制定された法令で、オンラインサービスで13歳以下の子供の個人情報を収集することを制限している。
Epic Gamesのケースでは、保護者の同意を得ることなくFortniteをプレーした13歳以下の子供の個人情報を収集したことがCOPPAの規定に違反していると判定された。
制裁金の内訳
制裁金は、COPPAの規約に違反したことによる罰則金2億7500万ドルと、消費者への返金2億4500万ドルという、二つの部分から構成される。
どちらもFTCが課した過去最大額の制裁金となる。
前者はCOOPAの規約に違反したことによる罰則金で、後者は利用者が「ダークパターン(Dark Patters)」といわれる手法などで、意図に反して購入させられたアイテムに対する払戻金となる。
消費者を欺く手法
ダークパターンとは消費者を欺くデザインを総称する言葉として使われる。
Fortniteだけでなく、ウェブサイトやオンラインサービスで導入されており、消費者を騙し、商品などを購入させることを目的としたデザインを指す。
Fortniteのケースでは、ゲームのキャラクターに着せるアイテムを購入するサイトでダークパターンが使われている。
アイテムを試着して、気に入らない場合には「Undo」ボタン(下の写真、左下のボタン)を押すと、購買を解約できる。
しかし、この「Undo」ボタンが表示される時間は短く、気が付くとボタンが消滅し、不本意にアイテムを購入させられることになる。
Epic Gamesの主張
これに対してEpic Gamesは、FTCと和解した背景についてステートメントを発表した。
これによると、COPPAは数十年前に制定された法令で、技術進化から取り残され、ゲームシステムの運用については規定していない。
Epic Gamesはゲーム業界の慣行に従って、システムを開発しているが、法令は変わっていないが、FTCは新しい解釈を示した。
Epic Gamesは、消費者保護を前面に打ち出して事業を展開しており、新たな解釈に従ってFTCと和解した。
子供向けのメタバース
Epic Gamesの創設者であるTim Sweeneyは、ゲーム企業からメタバース企業に転身すると述べ、ゲームエンジン上に仮想社会を構築し、メタバース事業を進めている。
この仮想社会でコンサート(アリアナ・グランデのツアー)やカンファレンスなどのイベントが開催され、Epic Gamesはメタバース開発で業界をリードしている。
また、Epic Gamesは、子供向けに安全なメタバースの開発を重点的に進め、LEGO Groupと提携して、子供や家族が楽しめる安全な仮想社会を開発している。
FTCとは
FTCはアメリカ連邦政府の独立機関で、反トラスト法に基づく不公正な競争の制限と、消費者保護の推進を任務としている。
消費者保護では、個人のプライバシーや個人情報を保護することがミッションとなる。
特に、AIの危険性から消費者を守ることを重点的に進めており、アルゴリズム利用に関するガイドラインを発表し、不公正な利用を法令で取り締まる指針を発表した。
バイデン政権
バイデン政権はAIを規制する方向に転じ、2022年10月、「AI Bill of Rights(AI権利章典)」を公開した。
AI Bill of Rightsとは、米国政府のAI規制についての指針を示したもので、各省庁がそれぞれの実態に応じて、法令や規約を制定してAIの危険性から国民を守る。
AI Bill of Rightsは、EUの「AI Act」に対応するもので、米国政府はAIを規制する方向に政策を転換した。
方針転換の背景
米国においてGAFAMなど巨大テックがAI新技術を生み出しており、今までは、規制よりイノベーションを優先する政策を取ってきた。
しかし、バイデン政権はこの指針を見直し、米国市民の権利を優先することを選択した。
欧州に比べ米国はAI規制が緩やかであったが、2023年からは、巨大テックやIT企業は責任あるAI開発が求められる。