[No.88]TeslaのEV市場での覇権が終わる、米国自動車産業はEVへの移行を加速、FordとGMはEV大衆車を投入

2022年は米国のEV(電気自動車)市場構造が大きく変わった年となった。

この市場ではTeslaが圧倒的なシェアを占めるが、GMやFordがEVの出荷を始め、シェアを奪い始めた。

米国自動車産業は、ガソリン車からEVへの移行を加速し、生産台数を急拡大している。

一方、Teslaは高度な自動運転技術を搭載したロボタクシーを開発しており、これを新たな収益モデルとして巻き返しを図る。

Teslaの凋落が鮮明となり、EV市場が激変の時を迎えた。

出典: Ford

Teslaの覇権が終わる

TeslaはEV開発で先行し、情報技術を駆使した革新的なクルマを投入し、消費者を惹きつけてきた。

EV市場でTeslaは圧倒的なシェアを占め、首位を独占してきたが、米国メーカーがこの市場に参入し、Teslaのシェアが低下している。

調査会社S&P Global Mobilityによると、Teslaのシェアは、2020年には79%であったが、2021年には65%と大きく減少した。

また、2025年には20%まで落ち込むと予想され、Teslaの覇権が終わろうとしている。

米国メーカーのEVシフト

FordとGMはEVへのトランジションを加速しており、相次いで新モデルを発表した。

Fordは人気のピックアップのEV版である「F-150 Lightning」(上の写真)の出荷を開始した。

一方、GMは既に、EVサブコンパクトカー「Chevrolet Bolt」を販売している。

今年から、ハイエンドのEVピックアップ「GMC Hummer EV」(下の写真)の販売を開始した。

新興企業ではRivianが2021年末からEVピックアップ「R1T」の販売を開始し、米国メーカーのEVへのシフトが鮮明になった。

出典: GM

Teslaの防戦

Teslaは2019年、EVライトトラック「Cybertruck」(下の写真)を発表し、ガソリン車のピックアップをサステイナブルな製品で置き換えると宣言した。

Cybertruckは出荷時期が何回も延伸され、2023年中旬から出荷が始まると言われている。

Cybertruckはテキサス州オースティンの「Gigafactory Texas」で生産される。

出典: Tesla

米国政府がEVを後押し

米国でEVの販売台数が増えている背景には、連邦政府によるEV産業育成のための政策がある。

インフラ法令「Bipartisan Infrastructure Bill」は2021年に成立し、EV向けのチャージング・ステーションの整備のために50億ドルの予算が充てられた。

今年成立したインフレ対策法令「Inflation Reduction Act」の骨子の一つが地球温暖化対策で、EV購入に対し7,500ドルの助成金が支給される。

バイデン政権は、米国メーカーがガソリン車からEVへシフトすることを支援しており、これらの法令によりこの流れが加速している。(下の写真、デトロイトモーターショーでGMのCEOであるMary Barraがバイデン大統領に「Chevrolet Silverado EV」を紹介している様子。)

出典: KEVIN LAMARQUE / REUTERS

Teslaのロボタクシー

Teslaはロボタクシーを開発しており、車両の販売に加え、サブスクリプション事業を立ち上げる計画である。

この機能は「Full Self-Driving」と呼ばれ、レベル5の自動運転車で、ドライバーの介在無しにクルマが自律的に走行する(下の写真、Tesla Model 3ベースのロボタクシーのイメージ)。

ドライバーはクルマを使わないときは、ネットワーク「Tesla Network」に接続し、ロボタクシーとして運行する。

ドライバーはロボタクシー事業で収入を得ることができる。

Teslaはこの収入の一部を手数料として徴収し、サブスクリプションによる事業を計画している。

しかし、完全自動運転車の出荷は何回も延伸され、今では、リリース時期は2024年といわれている。

出典: Tesla

Teslaの逆転はあるか

Teslaの株価は今年に入り70%下がり、事業が低迷していることを映し出している。

Elon MuskはTwitterの買収で、多くの時間を会社再建に費やしており、Teslaの運営が疎かになっているといわれている。

しかし、事業低迷の本質は、米国メーカーのEVへのトランジションで、予想を超えるペースで進んでいる。

また、中国市場ではEVメーカーBYDなどが製品を投入し、Teslaは苦戦を強いられている。

Teslaのコア技術はソフトウェアで、自動運転車がこの窮状を救う切り札となるのか、業界が注目している。