[No.36] 米国でAIを使った人事採用が規制される、企業はアルゴリズムの妥当性を監査することが求められる
米国企業は、人間に代わりAIが応募者を審査する、「AI人事」の導入を進めている。
これに対し、ニューヨーク州は、AI人事を規制する法令を可決した。これはAIが偏った判定をすることを防ぐもので、企業はアルゴリズムの妥当性を証明することが求められる。
企業はAIで採用プロセスを自動化しているが、これからはAI人事の運用には制限が課されることになる。
ニューヨーク市の法令
米国では、多くの企業が人事採用プロセスにAIを導入し、アルゴリズムが応募者を評価して、採用の可否を判定する。ニューヨーク市議会は、全米に先駆けて、AIを使った人事採用を規制する法令を可決した。
これによると、AIを人事採用プロセスで使う場合は、企業はアルゴリズムが公平に判断を下すことを証明することが求められる。
第三者による監査
具体的には、第三者がアルゴリズムの公平性を監査することが義務付けられた。
企業は、アルゴリズムが、性別や人種や出身地に関わらず、公平に評価できることを証明する必要がある。更に、人事面接でAIを使う場合は、その旨を応募者に明らかにすることも求めている。
アルゴリズムの監査
アルゴリズムを監査するというコンセプトは、企業の決算を監査する考え方に似ている。
上場企業は、決算報告書を財務当局に提出するが、その際、第三者により決算書の内容が正しいことを証明する。
アルゴリズムも同様に、人事採用のプロセスで、AIがバイアス無しに正しく判定を下すことを証明することが求められる。
AI人事のバイアス問題
ニューヨーク市がAI人事を規制する背景には、アルゴリズムが特定グループに有利に働き、判定結果がバイアスしているケースが発生しているため。
大企業の多くは、履歴書のスクリーニングや面接でAIを使っている。AIが人間に代わり、履歴書を読み、面接の応対を解析し、採用の可否を判断する。
企業としては、多数の応募者を効率的に判定できるため、AIが必須のツールとなっている。同時に、アルゴリズムの公正性について問題が指摘されていることも事実。
AI人事の判定結果を検証
実際に、AI人事の判定結果を検証するプロジェクト「Objective or Biased」がその問題を明らかにした。
AIは様々な手法で面接者を評価し、採用するかどうかを判定する。その一つが、「AI面接」で、アルゴリズムはビデオで撮影された応募者の表情を分析し、採否を判定する。
アルゴリズムは、声や使う言葉や手ぶりや表情を分析し、応募者の個性や特性を掴み、募集しているポジションに適しているかどうかを判定する。
AI面接の手法
プロジェクトはAI面接システム「retorio」の判定精度を検証し、結果が公平かバイアスしているかを評価した。
retorioはドイツ・ミュンヘンに拠点を置く企業で、ビデオ映像をAIで解析し、応募者の特性を5つの指標で評価する。
これらは、「ビッグファイブ」 (Big Five Personality Traits)と呼ばれ、オープン性(Openness)、誠実性(Conscientiousness)、外向性(Extraversion)、合意性(Agreeableness)、神経症(Neuroticism)で構成される。
AI面接の信頼性に疑問アリ
AIがビデオ映像からこれらビッグファイブの特性を評価し、採用の可否を判定する。
プロジェクトの検証によると、AIの判定精度は、人物以外のオブジェクトに依存し、必ずしも正しく判定できていないと指摘する。
例えば、メガネをかけて面接すると、AIの評価が低下する。また、応募者の背景により評価が変わる(下の写真)。
応募者の背後に本棚があると、AIの判定精度が大きく向上する(黄色のグラフ)。
これらの事例から、AI面接でアルゴリズムは本人だけでなく、メガネや本棚など、それ以外のオブジェクトを評価しており、判定精度に疑問が残るとしている。
アメリカ連邦議会
アメリカ連邦議会もAIによる自動化プロセスを規制する法案を審議している。
これは「Algorithmic Accountability Act」と呼ばれ、AIが自動で意思決定をするシステムをハイリスクと認識し、企業にAIの安全性を担保することを求める。
具体的には、アルゴリズムの判定精度が高く、バイアスしていないことを保証することが課せられる。この法案は審議中で、可決するかどうかは見通せないが、連邦政府もAIの規制に動き始めた。
AI面接システムの販売停止
AI面接については、その判定精度を疑問視する意見が多く、米国のAI企業HireVueは、AI面接のシステムの販売を停止した。
HireVueはビデオ面接の映像をAIで解析し、採用の可否を判定するシステムであるが、AIが本当に人間のように公正に判定できるのか、議論が続いていた。
ニューヨーク市を発端に、米国でAI人事への規制が広がる勢いとなってきた。