[No.239]トランプ大統領は”AIアポロ計画”を創設、エネルギー省のスパコンで先端AIを開発しバイオテックや核融合研究を加速させる
トランプ大統領は11月24日、高度なAIをサイエンス分野に適用し、バイオテックや核融合などの基礎研究を加速させる構想「Genesis Mission(ジェネシス・ミッション)」を明らかにした。
これはアポロ計画の構想をAIに適用したもので、サイエンス分野で新発見を生み出しブレークスルーを起こすことを使命とする。米国エネルギー省が運営しているスーパーコンピューターを統合し、ここで科学に特化したAIモデルを開発する。
中国は国家プロジェクトとして科学基礎研究を推し進め、そのレベルが米国に肉薄している。
トランプ政権はジェネシス・ミッションで高度なAIを生成し、科学分野でリーダーの地位を固めることを目論む。

ジェネシス・ミッションとは
「ジェネシス・ミッション」は大統領令で規定されイニシアティブで、科学的な発見や技術イノベーションを加速することを目的とする。
このための基盤技術としてサイエンスに特化したAIを開発し、AIエージェントが共同研究者となりブレークスルーを目指す。
ジェネシス・ミッションは1960年代のアポロ計画と対比され、科学技術の進化を政府が後押しし、世界における覇権を維持するとともに、米国の経済発展を支えるインフラを構築する。
プロジェクト構成
ジェネシス・ミッションはエネルギー省(Department of Energy)が主導するプロジェクトで、科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy)が事務局となり省庁間のコーディネーションを司る。
このプロジェクトはエネルギー省に設置されているスーパーコンピューターを使い、科学技術研究開発に特化したAIエージェントを開発する。
AIエージェントが研究者のアシスタントとなり、研究プロセスを自動化し開発速度を加速する。(下の写真、ローレンスリバモア研究所に設置されている世界最高速のスーパーコンピューター「El Capitan」)

プラットフォーム
大統領令はこのミッションを支えるプラットフォーム「American Science and Security Platform」を構築することを求めている。
プラットフォームはスーパーコンピューターやAIエージェントなどから構成され、科学基礎研究のエンジン「Scientific Discovery Engine」を支える(下の写真)。
プラットフォームの構成要素は:
- スパコン:エネルギー省は多数のスーパーコンピューターを運営しており、ここでサイエンス向けのAIモデルやAIエージェントを開発する
- AIエージェント:AIエージェントは共同研究者となり科学研究のプロセスを自動化する。AIエージェントが研究テーマを検索し、研究成果を評価し、研究プロセスを自動化する
- AIファウンデーションモデル:科学研究に特化したAIファウンデーションモデルを開発する。バイオテックや核融合に最適化されたモデルが生み出される
- データ:エネルギー省が保有している大量のデータをAI開発向けに公開する。AIファウンデーションモデルはこれらのデータを使って教育される
- ロボティックス:新たな挑戦としてロボットを科学技術研究に導入する。AIエージェントがデザインしたプロジェクトをロボットが実験室で実行する。この試みは「Robotic Laboratories」と呼ばれ、研究者に代わりロボットが実験を代行する

タイムライン
大統領令はプロジェクトのアクションアイテムとその完了日を規定している。270日以内にプロトタイプを構築する計画で、主なマイルストーンは:
- 90日以内:プラットフォームを構成するコンピュータ、ストレージ、ネットワークを特定する。また、民間からパートナー企業を選定する
- 120日以内:AI教育で利用するデータセットを選定する
- 240日以内:ロボット研究室を設立するための技術要件を評価する
- 270日以内:プラットフォームのプロトタイプ(“Initial Operating Capability)のデモを実施する
サイエンスの重点領域
ジェネシス・ミッションはサイエンスにおける基礎研究をAIエージェントで加速することを使命とする。
大統領令は対象領域を規定しており、バイオテック、核エネルギー(核分裂と核融合)、宇宙探査、量子情報科学、物質科学、半導体の分野で基礎研究を加速させる。
これらの領域で、AIエージェントが科学者と共同で研究を進め、シミュレーションや研究成果評価の過程を自動化する。
実際に、AIモデルは核融合の研究開発の必須要件で、Google DeepMindは核融合ベンチャー「Commonwealth Fusion Systems」と共同でトカマク型(Tokamak)核融合炉の開発を進めている(下の写真)。

ミッションへの期待と限界
ジェネシス・ミッションは科学技術発展に大きく寄与すると期待されている。
一方、ミッションは大統領令で規定されたプロジェクトで、政権の権限が及ぶ範囲が限定される。予算に関しては連邦議会が権限を持ち、ジェネシス・ミッションは設定された予算内で進められる。
具体的には、現行予算や研究者を再配分してプロジェクトを進めることになる。エネルギー省の限られた予算と研究者でどれだけの成果を得ることができるのかが最大の課題となる。

AIアポロ計画
トランプ政権はジェネシス・ミッションをAI世代のアポロ計画と呼ぶ(上の写真、イメージ)。
停滞しているサイエンス基礎研究を推し進める起爆剤として位置付ける。アポロ計画は、米国と旧ソビエト連邦の冷戦の中で、宇宙開発における覇権を目指す構図となった。
ジェネシス・ミッションは、米国と中国でし烈なAIレースが進む中で、安全保障の観点から科学技術を加速させ、サイエンス分野で世界の覇権を握ることを使命とする。

