[No.232]カリフォルニア州はAIフロンティアモデルを規制する法令を制定、トランプ政権は規制緩和を進め政策が対立、この法令が全米のAI安全基準となるか
カリフォルニア州はAIフロンティアモデルを規制する法令「SB 53 (Transparency in Frontier AI Act)」を制定した。
9月29日に州知事Gavin Newsom(下の写真)が法案に署名し、来年1月1日から発効する。この法令は開発企業にAIフロンティアモデルの安全性に関する情報を公開することを求めるもので、米国で最初のAIモデル規制法となる。
トランプ政権はAIアクションプランで規制を緩和する政策を取るが、カリフォルニア州はこれと反対に、AIモデルに一定の制限を課す。
連邦政府レベルの規制法が無い中、カリフォルニア・モデルが他州に広がり、これが事実上のAI規制フレームワークとなるのか、今後の動きを注視する必要がある。

AI規制法「SB 53」とは
カリフォルニア州のAI規制法「SB 53 (Transparency in Frontier AI Act)」(下の写真)はAIフロンティアモデルの安全情報を公開することを求める。
コンセプトはAI開発企業にフロンティアモデルに関し「透明性(Transparency)」と「説明責任 (Accountability)」を求める構成となる。具体的には、開発企業はフロンティアモデルの安全性を検証する手法を制定し、これに従って安全試験を実行し、その結果を公開することを求めている。
政府が安全試験を実施する手法を制定するのではなく、各企業が独自に試験プロトコールを定め、これに従ってベンチマークを実施する。

緩やかな規制
SB 53はAIイノベーションと安全性のバランスを重視し、緩やかに規制することが特徴となる。
AI開発企業は大企業に限られ、スタートアップ企業などはこの対象から除外される。法令によると、対象は年収5億ドル以上のカリフォルニア企業で、Google、OpenAI、Anthropic、Metaなどに限定される。
また、フロンティアモデルとはアルゴリズム教育で巨大システムで開発されたモデルとなる。具体的には、処理能力が「10^26 FLOPs」超えるプロセッサで開発されたモデルとなる。
企業は開発環境に関する情報を公開していないが、Google Gemini 2.5、OpenAI GPT-5、Anthropic Claude 3.5、Meta Llama 4などが対象となると推定される。
公開するドキュメント
SB 53はAI開発企業に安全性とセキュリティに関するフレームワークを公開することを求めている。
このフレームワークはAIモデルの開発で安全性とセキュリティの評価プロセスを定めたもので、この情報をウェブサイトなどで公開することを求めている。
具体的には、重大なリスクに関し、開発企業はこれをどのように管理・評価し、如何にリスクを回避する措置を講じたかなど、一連のプロセスを公開することを求めている。
リスク管理フレームワーク
AI市場ではリスク評価のフレームワークが開発されているが、SB 53は開発企業にこれらを適用することを求めている。
SB 53は具体的な安全フレームワークについて言及していないが、米国では国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology 、NIST)が開発した安全フレームワーク「AI Risk Management Framework」(下の写真)がその代表となる。
また、EUでは「AI Act」が制定され、米国の主要企業はこの安全フレームワークに準拠することを公表している。

インシデントレポート
SB 53は開発企業に重大なインシデントが発生した場合はそれをカリフォルニア州政府に報告することを求めている。
カリフォルニア州は「California Governor’s Office of Emergency Services(Cal OES)」という組織を運用しており、この部門が緊急事態や災害などのイベントに対処するハブとなる。SB 53は開発企業に対し、AIで重大な問題が発生した場合は、Cal OESにこれを報告することを求めている。
その後に、Cal OESは匿名でこのインシデントを公開するプロセスとなる。
二度目のトライアル
カリフォルニア州議会(下の写真)は昨年、AI規制法案「SB 1047」を可決したが、州知事のGavin Newsomは拒否権を発動し、この法案は成立しなかった。
この規制法案は開発企業にAIセーフティに関し厳しい義務を課すもので、AI開発が大きな制約を受けるとして成立には至らなかった。
SB53この義務を大幅に軽減し、対象を大企業に絞り、第三者による監査の義務などを削除し、緩やかで現実的な法令となった。

全米で広がるか
トランプ政権はAIイノベーションを重視しAI規制を緩和する政策を取る。
これに対し、カリフォルニア州はAI開発を後押しするものの、AIフロンティアモデルに対しては一定レベルの制限が必要であるとのポジションを取る。
この法令はカリフォルニア州に拠点を置く企業などに適用される。大手AI開発企業の多くがカリフォルニア州を拠点としており、法令はAI市場の多くの部分をカバーする。
また、他の州がカリフォルニア州のSB53をリファレンスとして、独自の法令を制定する流れが始まることも予測される。
カリフォルニア州のAI規制が全米における事実上の規制法となるのか、これからの動きを注視していく必要がある。

