[No.229]全米のレガシー・ソフトウェアをAIで書き換えセキュリティを強化する巨大構想「Great Refactor」、コーディングAIエージェントが古い言語(C/C++やCOBOL)を安全な言語(RustやJava)に自動で変換

米国で社会の基幹を担うソフトウェアをAIエージェントで書き換え、システムをモダン化する構想が発表された。

これは「Great Refactor」と呼ばれ、レガシー・システムを改修しセキュリティを強化することをミッションとする。米国政府や民間企業は古いシステムを汎用機の上で稼働し基幹業務を実行している。

これらレガシー・コードはセキュリティに関し重大な脆弱性を内包しサイバー攻撃の標的になってきた。これらを人間に代わりAIエージェントが書き換えセキュアなシステムを生成する。

出典: Generated with Google Imagen 4

リファクタリングとは

リファクタリング(Refactoring)とはプログラムを書き換える技術で、その機能を変えることなく、コードを改良することで、プログラムをモダン化し、運用性を高める技法を意味する。

また、コードを整理することで、読みやすさを増し、保守作業を容易にするために使われる。

Great Refactorではセキュリティに重点を置き、古いコードが内包している脆弱性を補強することを目的とする。

レガシー・コードのリスク

レガシー・コードの多くはプログラム言語「C」や「C++」で記述されており、技術的な問題を含んでいる。

その代表がメモリ(主記憶)管理機能で、「C」や「C++」で生成されたプログラムはメモリ操作でバグがあり、これがサイバー攻撃の標的となってきた。

ランサムウェア「WannaCry」などがメモリ管理のバグをついてシステムに侵入し、システムを暗号化するなど社会に重大な被害をもたらした。

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Great Refactorとは

Great Refactorは「C」や「C++」で開発されたコードを安全な言語「Rust」に書き換える構想となる。

対象はオープンソース・ソフトウェアで、AIエージェントがリファクタリングの作業を担う。オープンソース・ソフトウェアは全米で幅広く使われており社会インフラを構成する。

その代表が基本ソフト「Linux」で、そのカーネルは「C」で記述されている。また、Linuxの主要ライブラリも「C」で開発されている。

例えば、通信暗号化プロトコール「OpenSSL」やリモートログイン「OpenSSH」が社会で幅広く使われているが、これらも「C」で記述されている。

Great Refactorはこれらを「C」や「C++」言語から「Rust」言語に書き換える構想となる。

プロジェクトの概要

この構想はワシントンDCに拠点を置くシンクタンク「Institute of Progress」により提唱された。

この提言によると、2030年までにレガシー・コードを書き換え、新たなシステムを開発する。新システムは1億ライン(1億行のコードをから構成される)システムとなる。

開発に要する費用は五年間で1億ドルとなり、これを政府と民間が共同で出資する。

ソフトウェア・インフラが強化されることにより、20億ドルの支出を抑えることができると試算している。

AIエージェントの技術進化

ファウンデーションモデルの技術が急速に進化し、そのキラーアプリケーションはコーディング・エージェントという構図が明らかになってきた。

AIエージェントが人間の指示に従ってアプリをコーディングする。AIがエンジニアに代わりソフトウェアを開発する時代に突入した。

AI企業はコーディング機能を相次いでアップグレードし、Anthropicの「Claude Sonnet 4.5」がトップの性能を持つ。これをOpenAIの「GPT-5 Codex」が追う構図となる。

Googleはコーディング・エージェントを製品化していないが、複雑なプログラミングを実行するモデル「AlphaCode」の研究開発を進めている。

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COBOLレガシー

Great Refactorと並行して、政府機関や民間企業はレガシー・システムをモダン化する作業を進めている。

これらのシステムはプログラム言語「COBOL」で書かれ、汎用機(Mainframe Computers)で稼働している。システムは50年以上前に開発され、古いアーキテクチャに準拠しており、新しい機能の追加や保守作業が極めて難しい。

社会の基幹インフラはこれらレガシー・システムに構築され、基幹サービスをセキュアに安定して提供することが困難な状態が続いている。

レガシーシステムの事例

連邦政府は税金や年金の処理をCOBOLで書かれたレガシー・システムで実行している。

また、民間企業では、銀行の基幹システムがレガシー・システムで構築され、負の資産を引きずっている。また、飛行機予約システム「Programmed Airline Reservations System」がCOBOLで記述され、そのシステムがIBMの汎用機の上で稼働している。

米国では頻繁に航空機の運用管理や予約業務で障害が発生するが、その根本原因はCOBOLレガシー・システムにある。

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ソフトウェア・インフラをリファクタリング

Great Refactorはオープンソース・ソフトウェアをAIエージェントで書き直しセキュアなシステムを構築するプロジェクトで、AIの進化でこれが実現可能な領域に入ってきた。

同時に、米国では汎用機で稼働しているシステムをモダン化するプロジェクト「メインフレーム・リファクタリング(Mainframe Refactoring)」が進んでいる。汎用機で稼働しているレガシー・システムを書き換えてクラウドに移管するモデルで、AWSやGoogle CloudやMicrosoft Azureが推進している。

コーディングAIエージェントの急速な進化で、米国のソフトウェア・インフラをリファクタリングする手法に注目が集まっている。