[No.176]iPhone 16にApple Intelligenceが搭載される、AppleはモバイルAI企業に大きな一歩を踏み出す

Appleは9月9日、発表イベント「It’s Glowtime」でApple IntelligenceをiPhone、iPad、Macに搭載し、来月から米国で公開することを明らかにした。

一方、EUや中国では法令の制約から、Apple Intelligenceのリリース時期を延期する。Apple Intelligenceは生成モデルと個人情報を組み合わせたシステムで、インテリジェントな機能を提供する。

一方、Apple Intelligenceの機能はベーシックで、ここがスタート地点で、段階的にアップグレードされることになる。(下の写真、進化したSiriを起動するとデバイスの周囲が輝く(Glow)。)

出典: Apple

Apple Intelligenceとは

Apple Intelligenceは「パーソナル・インテリジェンス(Personal Intelligence)」として位置付けられ、生成AIモデルで個人データを解析し、利用者にインテリジェントなライフスタイルをもたらす。

Apple Intelligenceは基本ソフト「iOS 18.1」などに搭載され、来月から米国で公開される。12月にはオーストラリアやカナダなどの英語圏で、来年には日本や中国など多国語対応モデルがリリースされる。

一方、Apple Intelligenceについては、EUと中国ではリリースを見送る。EUでは巨大テックの独占を禁止する法令「Digital Markets Act (DMA)」に準拠することが求められ、その解釈が明確になるまで出荷を見合わせる。

Apple Intelligenceの機能

Apple IntelligenceはiPhone やiPadやMacに実装され、デバイスの機能をインテリジェントにする(下の写真)。

「Writing Tools」はドキュメントを作成する支援ツールとなり、「Summaries」は受信したメールなどの要約を生成する。「Advanced Siri」はインテリジェントなSiriで、個人情報を理解しエージェントのように知的にタスクを実行する。

「Clean Up」は写真撮影したイメージから不要な部分を削除する機能を持つ。

出典: Apple

文章作成ツール:Writing Tools

文書作成ツールはメールなどに統合され、文章作成を支援する機能を持つ。

生成したドラフトを査読し、また、異なるトーンに編集する機能などがある。例えば、履歴書を送付する際に、メールの内容を格調高い形式にアップグレードするなどの使い方がある(下の写真)。

出典: Apple

写真クリーンアップ:Clean Up

写真クリーンアップは写真撮影したイメージの中から不要な部分を消去するツールで、簡単な操作でこれを実行できる。

例えば、被写体の背景に写りこんだ自転車などを取り除くために使われる(下の写真)。

写真の編集はAdobe Photoshopなどが使われるが、これをデバイス上で実行できる。

出典: Apple

進化したSiri:インテリジェンス

Apple IntelligenceでSiriの機能がアップグレードされた。

Siriは自然な会話で対話することができ、言葉を理解する能力が向上した。また、Siriは個人情報にアクセスし、メールやテキストメッセージなどのコンテンツを理解し、問われたことに対し的確に回答する。

「Juneから受信したファイルを表示」と指示すると、Siriは人間の秘書のようにタスクを実行する(下の写真、左上)。

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進化したSiri:デバイスの操作

SiriはApple WatchやAirPodsと連携し、これらのデバイスを言葉で操作できる。

屋外における利用を想定しており、Apple Watchに「30分のランニング開始」と指示すると、フィットネス・アプリが起動し、スタートのカウントダウンが始まる(下の写真左側)。また、AirPodsに「アップビートな音楽を再生」と指示したり(右側)、また、メールの発信を命令することもできる。

更に、「CarPlay」と連携し、クルマのダッシュボードと言葉で対話し、目的地までのナビゲーションを起動する。MRグラスである「Apple Vision Pro」を音声で操作することもできる(最終ページの写真)。

出典: Apple

Apple Intelligenceの評価が分かれる

発表イベントではApple Intelligenceを中心にiPhone 16などのハードウェア新機能が発表された。

AIがメインテーマであるが、その評価については肯定的な意見と否定的な意見が聞かれる。Apple Intelligenceは革新的な技術ではなく、ベーシックな機能を提供している、との解釈が主流になっている。

例えば、「Writing Tools」の機能は既に他社から提供され、消費者の多くはこれを既に利用しており、新鮮さに欠けるという見方である。

出典: Apple

AppleがAIに慎重な理由

同時に、Appleは高度なAIを提供することに対し、慎重な姿勢を示しているとの解釈もある。

欧米の消費者の多くはAIに対し、安全性に関する懸念を抱いている。他社から先進的な技術が投入されるが、消費者はこれに対し漠然とした恐怖感を抱いている。

Appleは安全でセキュアな製品を開発する会社で、Apple Intelligenceについては、慎重に開発を進め段階的に機能をアップグレードする戦略を取る。

AppleのAIビジネス

同時に、Appleはクラウド企業ではなく、iPhoneなどエッジコンピューティングを提供する会社で、AIでどう事業を構築するかが問われている。

斬新なAIの投入でiPhoneなどの買い替えが進むことを期待しており、Apple IntelligenceでiPhone 16の売り上げが伸びることを狙っている。一方、高度なSiriを投入すると、専用アプリを使う必要性が低減し、アプリストアの収入の減少につながる。

更に、検索エンジンの利用が低下する可能性があり、Apple Intelligenceが事業収入にマイナスに作用する可能性もある。エッジコンピューティング企業であるAppleは、Apple Intelligenceでどうビジネスを構築するのか、AI時代の事業構造の模索が始まった。

出典: Apple