[No.134]OpenAIの取締役会はCEOのSam Altmanを解任!!安全と利益の優先順位で意見が対立か、ショッキングで謎に包まれた発表でAI市場が大混乱
OpenAIの取締役会は、11月17日、CEOのSam Altman(下の写真)が退任すると発表した。
後任には、CTOのMira Muratiが暫定的なCEOとして就任する。
これは事実上の解任で、Altmanと取締役会の間で、AI開発の進めかたで重大な意見の相違が表面化した。
Altman解任の経緯
OpenAIは解任の理由について何も触れておらず、様々な憶測が飛び交い、市場が混乱している。
米国メディアは、AI開発において、利益を優先するのか、それとも安全性を重視するのか、意見の対立があったと報道している。また、MicrosoftはOpenAIに出資し、密接に事業を進めているが、解任については発表直前に知らされ、株価が大きく値下がりした。
OpenAIを巨大企業に育てたCEOを突然解任したことに対し、不信感が広がるとともに、Altmanを擁護する声が高まっている。
更に、Altmanに追随してOpenAIの開発者が離職するのか、また、Altmanは新たにAI企業を創設するのか、次のステップが注視されている。
OpenAIの公式発表
OpenAIはAltmanが退任すると発表し、その理由は「Altmanは取締役会とのコミュニケーションで誠実でなく、責務を果たすことが難しい」と述べている(下の写真)。
これ以上の説明は無く、唐突な解任で、その理由が明らかにされず、OpenAIの取締役会に対する信用度が低下している。
取締役会は、企業経営で、公正な運営がなされるよう監視する役割を果たすが、企業の成長を担ってきた経営者を、理由を明らかにしないで解任したことに、批判の声が高まっている。
米国メディアの報道
米国メディアは解任の経緯について速報で伝えており、その多くはAI開発で路線の違いが鮮明になったと報道している。
Bloombergは、「Altmanは技術開発を急ぎ、それに対し、取締役会は安全対策を優先することを求め、意見が対立し、これが解任に繋がった」と分析している。
特に、チーフサイエンティストのIlya Sutskeverが、Altmanと幅広い分野で意見が対立したと報道している。
OpenAI関係者と役割 (上の写真、左から)
- Mira Murati:暫定CEO、アルバニア出身、TeslaでModel Xの開発に携わる、今ではOpenAIの顔として技術を伝える役割を担っている
- Sam Altman:ミズーリ州出身、ベンチャーキャピタル「Y Combinator」のCEOとして多くの企業を育てる、シリコンバレーで幅広いネットワークを持つ
- Greg Brockman:元会長兼社長、ノースダコタ州出身、AltmanらとOpenAIを設立、「OpenAI Five」などAIエージェントを開発、Altmanの解任に伴って会社を退社
- Ilya Sutskever:旧ソビエト出身、チーフサイエンティスト、トロント大学で「AlexNet」を発表しこれがAIブームの引き金となる、AltmanらとOpenAIを設立
利益優先か安全担保か
OpenAI社内は、AI開発において安全性を優先するのか、それとも、開発のスピードを重視し、利益を重視するのか、意見が分かれていた。
Altmanは技術推進派で、AI開発には大規模な計算機が必要で、独自でAIチップを開発する構想を明らかにしている。このため、サウジアラビア政府と投資に関する交渉を進めていると報道されている。
一方、Sutskeverは、AIの安全対策を優先すべきと主張し、危険性を解明する部門を設立した。
AGIの登場に備え、アルゴリズムを制御する技術「Superalignment」の研究を推進している。
会社の構造が要因
また、OpenAIが特異な組織構造であることが路線の違いに影響している。
OpenAIはAI研究の非営利団体として、2015年に設立された。OpenAIはオープンな手法でAIを開発することをミッションとしてきたが、2019年、会社の構造を改定し、利益を追求する営利団体を設けた。
OpenAIは、親会社である非営利団体「OpenAI, Inc.」と、その子会社の営利団体「OpenAI GP LLC」から構成される(下のグラフィックス)。OpenAI, Inc.(非営利団体)が企業の戦略を決定し、OpenAI GP LLC (営利団体)がこれに基づいて製品を開発し利益を追求する構造となる。
取締役会は営利団体に属し、ChatGPTなどの技術は営利団体で開発された。
取締役会は、会社の約定に従って、事業部門に社会に寄与するAIの開発を求めてきた。
主要メンバーの離散
OpenAIが経営方針を転換したことで、幹部社員が会社を離れ、生成AIスタートアップ企業を設立し、独自に安全なモデルを開発している。
GPT-3の開発責任者であったDario Amodeiは、他のメンバーと共にOpenAIを去り、Anthropicを設立した。AnthropicはChatGPTに相当するモデル「Claude 2」(下のグラフィックス)を開発し、今ではOpenAIの対抗軸となっている。
Anthropicは、生成AIを安全に運用するために、アルゴリズムが順守すべき「憲法(Constitution)」を定め、利用者の権利と安全性を担保する方式を取る。
アメリカ社会の世論
唐突で謎に包まれた解任で、アメリカ社会でAltmanを擁護する声が増している。
Altmanは、Appleを去ったSteve Jobsにイメージが重ねられ、解任は理にかなっていないとの意見が増えている。当時のCEOと意見が対立し、JobsはAppleを解雇されたように、Altmanは路線の相違で取締役会から解任された。
Googleの元CEOであるEric Schmidtは、「Altmanは会社をゼロから900億ドルの規模に成長させ、ヒーローである」と述べている。
次のステップは
同時に、市場はOpenAIの新たな企業戦略と、Altmanの次の動きを注視している。
OpenAIは次世代モデル「GPT-5」を開発しているとされ、これをどんなペースで進めるのかが焦点となる。また、Altmanの解任に抗議して、同日、会長兼社長であるGreg Brockmanが会社を去った。
これに追従する幹部社員が現れるのか、また、Altmanはカギとなるエンジニアと共にOpenAIに対抗する企業を創設するか、次のステップに関心が集まっている。