[No.123]GoogleはAIクラウド「Vertex AI」の機能を拡張、企業向け生成AIの開発競争がヒートアップ
Googleは今週、開発者会議「Cloud Next 2023」を開催し、クラウドの最新技術を公開した(下の写真)。
イベントの中心はAIで、Googleは企業向け生成AIをクラウドで提供する仕組みを拡充した。生成AIが急速に普及しているが、機能や安全性などに課題があり、企業がこれをビジネスで使うには敷居が高い。
Googleは企業グレード「Enterprise-Ready」の生成AIが準備できたとアピールした。
企業向け生成AI
GoogleはAIモデルをクラウド「Vertex AI」で提供しているが、今回、生成AIのモデルを拡充した。
AIモデルは「Model Garden」に集約され、企業は業務に応じて最適なモデルを選択できる(下のグラフィックス)。ここには100を超えるモデルが集約され、言語生成モデルの他に、イメージ生成モデルなどが揃っている。
Model Gardenは、Googleが開発したモデルの他に、第三者が開発したオープンソースなどが登録されており、世界の主要AIを利用することができる。
Googleが開発したモデル
ここにはGoogleが開発した主要モデルが登録されている。
その中心は大規模言語モデル「PaLM」で、今回、この機能がアップグレードされた。
主なモデルは:
- PaLM:大規模言語モデルで基礎教育を終えた汎用モデルとなる。更に、これをテキスト生成機能に最適化したモデル「PaLM 2 for Text」や、ヘルスケア専用モデル「PaLM 2 for Med」などがある。
- Codey:PaLM 2をベースとするモデルで、プログラムのコーディングを実行する。三つのモードがあり、コード生成「Code Generation」、会話しながらコード生成「Code Chat」、入力したコードを完成「Code Completion」で、用途に応じて使い分ける。
- Imagen:入力されたテキストに沿ってイメージを生成するモデルで、簡単にハイパーリアルなイメージを創り出す。Vertex AIで企業向けのAIモデルとして提供する。
テキスト生成モデル:PaLM 2 for Text
「PaLM for Text」は大規模言語モデル「PaLM 2」をベースとし、それを再教育し、テキスト生成機能に最適化したモデルとなる。
多彩な自然言語処理機能を持ち、テキスト生成やドキュメント要約の他に、チャットボットとして対話する機能などがある。Vertex AIはモデルをビジネスで活用するために機能を改良する環境「Generative AI Studio」を提供している。
ここでプロンプトに対し、モデルが回答するスキルを教育する。これは「Prompt Design」と呼ばれ、ビジネス専用の生成AIを作り出す(下のグラフィックス)。
コード生成モデル:Codey
GoogleはPaLM 2をベースとするプログラミング機能「Codey」を提供している。
CodeyはPythonなど多言語に対応しており、プロンプトの命令に従って、コーディングを実行する。前述の通り、三つのモードがあり、コード生成「Code Generation」は、プロンプトに入力した言葉に従ってコードを生成する。
プロンプトに「Write a Python script that splits PDF into individual pages」と指示すると、それに従ってモデルはPythonのコードを生成する(下のグラフィックス)。
イメージ生成モデル:Imagen
Model Gardenの中でビジョン系「Vision」のモデルは数多く取り揃えられている。
Googleは言葉でイメージを生成する「Imagen」を公開したが、Vertex AIでこれを企業向けに提供する。Imagenは言葉の指示に従ってイメージを生成するモデルで、「Freight truck high quality」と入力すると、大型トラックの高品質な画像が生成される(下のグラフィックス)。
この他に、オープンソースとして公開されている「Stable Diffusion」や「CLIP」などをサポートしている。
イメージの由来を特定する技術:SynthID
DeepMindは、AIが生成したイメージにウォーターマーク(Watermark)を挿入する技術「SynthID」を開発し、これをVertex AIで展開する。
SynthIDは二つのAIモデルから構成され、一つはImagenで生成したイメージにウォーターマークを挿入する。もう一つは、生成されたイメージをスキャンして、それがImagenで生成されたものかどうかを判定する。
企業はSynthIDを使うことで、生成したイメージを保護し、それが不正に利用されることを防ぐことができる。なお、イメージにウォーターマークを挿入しても人間はこれを感知できない。
また、生成したイメージが編集(フィルター処理やファイルの圧縮など)されても、ウォーターマークは存続する(下の写真)。
他社の人気モデル
Vertex AIは他社が開発したモデルを追加し、ラインアップを拡充した。
市場で人気のある生成AIが加えられ、企業の選択肢が拡充された。
注目のモデルは:
- LLaMA 2:Metaが開発した生成AIでオープンソースとして公開されている。ChatGPTと同レベルの性能を持つ。三つのモデルが提供される(下のグラフィックス)。
- Claude 2:スタートアップ企業Anthropicが開発した生成AI。高度な言語モデルであるが安全性に重点を置くアーキテクチャとなる。Googleが出資している企業で安全技術を共同開発。
企業向け生成AIの開発競争
企業が生成AIを安全に利用する技術の開発競争がヒートアップしている。
OpenAIはこれに先立ち、新モデル「ChatGPT Enterprise」を投入し、企業が独自のChatGPTを開発できる環境を提供した。GoogleはVertex AIをアップグレードし、企業が独自の生成AIモデルを生成できる環境を提供する。
生成AIの開発はエンタープライズ機能の強化が最大のテーマとなる。