[No.85]Elon Muskは脳にインプラントするチップ「Neuralink」の最新技術を公開、汎用人工知能(AGI)の登場に備え人間の知能を補強する
Elon Muskは発表イベント「Show and Tell」で、Neuralinkの最新技術をレビューし、ロボットで脳にチップをインプラントするデモを公開した。
また、六ヶ月以内に人間に適用し、臨床試験を開始することを明らかにした。
Neuralinkは脳とコンピュータのインターフェイスで、身体障害者の治療法として使われる。
一方、Muskは、医療技術以外に、汎用人工知能(Artificial General Intelligence)の登場に備え、人類は脳にチップをインプラントし、知能を補強することで、AIの脅威に備える必要があると主張する。
Neuralinkとは
Neuralinkはサンフランシスコに拠点を置く新興企業で、脳にインプラントするチップ「Link」(上の写真)を開発している。
これを脳に埋め込みマシンのインターフェイス「Brain Computer Interface」となり、身体障害者の治療などに適用する。
Neuralinkは、従来のインターフェイスとは異なり、脳と大容量のデータを送受信できることが特徴となる。
例えば、Motor Cortex(下の写真、随意筋運動を支配する領域)とチャネルを確立し、障害者が身体を動かせるようにする。
Neuralinkは2016年にElon Muskにより創設され、2021年にはGV (Google Ventures)などが出資している。
ロボットのデモ
このイベントで、ロボットが脳にチップをインプラントするデモが上映された。
このロボットは「Surgical Robot」(下の写真右側)と呼ばれ、脳にチップをインプラントするプロセスを全自動で実行する(下の写真左側)。
ロボットは頭蓋骨をくり抜き、チップの電極(先頭の写真右端)を脳の表皮に差し込む措置を実行する。
コンピュータビジョンを使い、大脳皮質で血管が通っていない場所を特定し、ここに電極を差し込む処置となる。
プロダクションに向けて
実際に、インプラントのための手術室が設けられ、ここにロボットが設置されている(下の写真)。
これはテキサス州オースティンに造られた施設で、Neuralinkはプロトタイプの段階からプロダクションに向かって進んでいることを印象づけた。
昨年のデモ
昨年、Neuralinkは、チップをインプラントしたサルが、ビデオゲームをプレーするデモを実施した(下の写真)。
インプラントされたチップがニューロンのシグナルを計測し、それをスマホ経由で外部に送信する。
そのシグナルをAIで解析し、そこからサルの意図を読み出し、ビデオゲームのジョイスティックを操作する。
サルは手を使うことなく、脳のシグナルだけでゲームをプレーできることが示され、製品化にむけて大きく前進した。
既に治療技術として確立
脳にデバイスをインプラントして病気を治療する方式は、「Deep-Brain Stimulation (DBS)」と呼ばれ、医療現場で使われている。
これはパーキンソン病患者の治療手法となり、脳にインプラントした電極にシグナルを送信し、被験者の動きを制御する。
また、この手法は精神医療の分野で、癲癇の発作を抑えるために使われている。更に、メンタルヘルスの分野では、うつ病などの治療法として使われている。
AIの脅威に備える
Muskは、Neuralinkを医療機器として病気の治療に使うだけでなく、最終ゴールは人間のインテリジェンスを補強することにある、と述べている。
Muskは、人間の知能を上回る汎用人工知能(Artificial General Intelligence、AGI)が人類を滅ぼすと警告しており、このAGIに備えて人間のインテリジェンスを拡張する必要があると主張する。
岐路に差し掛かる
今年のイベントで、大きな技術進化は示されず、Neuralinkの開発が停滞している印象を受けた。
Muskは、プロトタイプをプロダクションに仕上げるのが最大の課題で、会社が重大な岐路に差し掛かっていることを示唆した。
Muskは、Twitterの買収と会社再構築に多くの時間を割いており、Neuralinkの切り盛りが手薄になっていることも事実である。