[No.75]AIが生成したコミックブックの著作権が認められる、テキストをイメージに変換するAIでアニメ事業がスタート

米国でテキストをイメージに変換するAIで事業が生まれている。
これは、言葉の指示に従ってイメージを生成するAIで、描きたい内容をテキストで入力すると、アルゴリズムはそれに沿った画像を生成する。この手法でコミックブックが制作され、販売が始まった。

著作者はコミックブックの著作権を申請し、これが認められた。AIが描き出すイメージが著作権で保護されることになり、AI出版が大きな事業になると期待されている。

一方、これに慎重な姿勢を示す企業は多く、AIで生成されるイメージの販売禁止も広がっている。

出典: Kris Kashtanova

コミックブック

このコミックブックは「Zarya Of the Dawn」というタイトルで、Kris Kashtanovaにより制作された。

主人公Zarya(上のイメージ)が、未来のニューヨーク(下のイメージ)を探訪するストーリーとなっている。これらのグラフィックスはAIにより生成され、ここにセリフを付加して、物語を構成し、コミックブックが創られた。

アーティストが画面を描き出す代わりに、AIがイメージを生成した。

出典: Kris Kashtanova 

製作者プロフィール

このコミックブックを制作したのはニューヨークを拠点に活動しているKris Kashtanovaで、職業は「Prompt Engineer」としている。
テキストをイメージに変換するAIを使い、最適な入力文(Prompt)を見つけ、印象的なグラフィックスを生成するエンジニアとなる。

著作権を申請

Kashtanovaは、制作したコミックブックを著作権物として申請した。
米国著作権局(United States Copyright Office)は、今週、これを認可し、コミックブックが著作物として登録された。

これにより、「Zarya Of the Dawn」は、著作権法による保護の対象となった。AIが生成したイメージが著作権で保護されるのはこれが最初のケースで、AI出版事業への道筋が開けると期待されている。

過去の事例

AIが生成したイメージに対する著作権申請はこれが最初ではなく、過去にも行われたが、米国著作権局は、この申請を退けている。

米国の発明家Stephen Thalerは、AIで創作したデジタルアートの著作権の登録を申請した。このAIは「Creativity Machine」という名前で、アルゴリズムが「A Recent Entrance to Paradise」という題名のデジタルアートを生成した。

この申請に対し、米国著作権局は、2022年2月、AIが生成したアートは、人間が創作に関与しておらず、著作権の登録はできないとの判定を下した。

コミックブックの著作権が認められた理由

米国著作権局は、著作権で保護できる著作物は、人間が制作したものに限られる、との解釈を示している。AIなど人間以外のものが創作した著作物は、著作権の保護の対象とはならないことになる。

一方、デジタルアート制作の過程で、人間の関与があれば、創作物は著作権で保護される対象となる。

今回のケースでは、クリエーターがコミックブックを制作する過程で、AIというツールを使ってイメージを生成したので、この作品は著作権物として登録することができた。

出典: Kris Kashtanova 

Midjourney

Kashtanovaは利用したAIは「Midjourney」であることを明らかにしている。

コミックブックの表紙に、製作者として、自身の名前とMidjourneyを併記している(先頭のイメージ)。MidjourneyとはAI研究団体で、独自の手法で、テキストをイメージに変換する技術を開発した。

現在はベータ版が公開されており、サイトでイメージを生成できる。ギャラリーには既に、Midjourneyで制作されたデジタルアートが掲載されている(下のイメージ)。

出典: Midjourney

主人公は誰

Zarya Of the Dawnの著作権が認められたが、主人公「Zarya」は誰かという議論が広がっている。

コミックブックを通じて、AIが同じ人物を描き出しており、製作者はテキストで特定の氏名を指示していることになる。巷では、この人物は米国の女優Zendaya(ゼンデイヤ)であるとの憶測が広がっている。

Zendayaは映画やテレビで活躍するでけでなく、2022年にはTimeの「世界で最も影響力のある100人」に選ばれている(下の写真)。確かに、Zendayaは主人公Zaryaに似ている。

出典: Time 

AIイメージの取り使いを禁止

米国ではMidjourneyの他に、OpenAIが開発した「DALL-E」や、Stability AIの「Stable Diffusion」など、テキストからイメージを生成するAIがデジタルアートの制作で使われている。

このため、ネット上にはAIが生成したデジタルアートが満ち溢れている。このような中、写真画像販売会社Getty Imagesは、AIで生成したイメージをサイトにアップロードして、これを販売することを禁止した。

禁止の理由

Getty Imagesは、AIが生成したイメージを禁止する理由として、イメージそのものと、AIを教育したイメージに関し、著作権侵害のリスクがあるという解釈を示してる。多くのAIは、著作権で保護されているイメージを使って、アルゴリズムを教育している。

この手法はスクレイピングと呼ばれ、フェアユース(Fair Use)で、その利用行為は著作権の侵害に当たらないとの解釈が一般的である。

しかし、生成したイメージを商品として有償で販売するケースでは、この抗弁は成り立たず、著作権侵害にあたるとの解釈がある。

出典: AI Comic Books

グレーなエリア

AIに関する著作権の議論が収束しないなか、既に、AIで生成されたコミックブックが数多く販売されている。

その代表がAI Comic Booksで、AIで生成したコミックブックのマーケットプレイスで、ここで多くの作品が販売されている(上の写真)。Zarya Of the Dawnもこのサイトで販売されており、価格は無料であるが、その代わりに寄付金を募っている。

アルゴリズムを著作権で保護されたイメージで教育すると、AIが生成したイメージは合法なのか、グレーなエリアでビジネスが広がっている。