[No.74]イーサリアムは歴史的なアップグレード「Merge」を完了、省エネなブロックチェーンに進化し二酸化炭素排出量が激減、暗号通貨が再評価され本格的に普及するか

ブロックチェーン「イーサリアム(Ethereum)」は、取引を認証する方式を改善し、電力消費量を大きく抑えたシステムに進化した。
この改良は「マージ(Merge)」と呼ばれ、無事に移行作業が完了し、今週から新しいイーサリアムが稼働している。
暗号通貨は、マイニングの処理で大量の電力を消費し、地球温暖化の要因となっている。

イーサリアムはこの問題を解決し、暗号通貨が本格的に普及するのか、新世代のブロックチェーンに注目が集まっている。

出典: Ethereum

イーサリアムとは

イーサリアムはビットコイン(Bitcoin)に次ぐ、二番目の規模のブロックチェーンで、2015年から運用を開始した。

ロシア系カナダ人であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)が考案し、今ではオープンソースとして開発者団体「イーサリアム・ファウンデーション(Ethereum Foundation)」で管理されている。

イーサリアムはブロックチェーンとして、分散型アプリケーション「Decentralized Application (略称はDapp)」を運用する基盤として使われ、その代表が暗号通貨「イーサ(Ether、略称はETH)」となる。

マージが完了

イーサリアムは、9月15日、検証方式を改良する移行作業「マージ(Merge)」を完了した。

マージとは、取引の正当性を検証する方式を「Proof-of-Work (PoW)」から「Proof-of-Stake (PoS)」に移行するプロセスを指す(下のグラフィックス)。

ブロックチェーンは、取引の記録を取引台帳「ブロック(Block)」に書き込み、これを複数のノードに分散して保管し、安全に運用する。
ブロックを生成する方法は二種類で、これがPoWとPoSとなる。イーサリアムは創設以来、PoWを使ってきたが、マージによりPoSに移行した。

出典: Ethereum

PoWからPoSに移行する理由

PoWはマイニング(Mining)とも呼ばれ、難解な数学問題を解いた最初のマイナーに、ブロックを生成する権利が与えられ、この対価として報酬を受ける仕組みとなる。

このため、マイナーは競い合って、高性能プロセッサを使い、難解な数学問題を解く。この結果、多数の高性能プロセッサが稼働し、大量の電力を消費し、これが地球温暖化の原因となっている。

イーサリアムは、エネルギー問題を解決するため、検証方式をPoWからPoSに移行し、消費電力を99.95%削減できるとしている。

PoSの検証方式

新方式のPoSは、ノード運用者が暗号通貨イーサ(ETH)を担保として差し入れ、検証者(Validators)になる方式を指す。

検証者は、取引内容を精査し、正常に処理されたことを確認する作業を実行する。検証作業が終了すると、検証者はブロックを生成し、その対価としてイーサを受け取る。

PoS方式では、難解な数学問題を解く必要はなく、通常のプロセッサで処理を実行でき、電力消費量が大幅に低減する。なお、検証者が不正行為をした際は、担保は没収され、検証者の権利を失う。

このため、SoWは担保を根拠に公正な取引ができる仕組みとなる。

新しいイーサリアム

システムの観点からは、マージは次のプロセスで実行された。従来のブロックチェーンは「Ethereum Mainnet」と呼ばれ、ここに新しい認証方式「Beacon Chain」を組み込む作業となった。

Beacon ChainがPoSのエンジンで(下のグラフィックス)、これを従来システムにマージした形となる。先頭のグラフィックスがこれを模式的に示している。

宇宙船全体がイーサリアムで、その本体(円形の部分)がEthereum Mainnetを示し、ここに新しい認証方式(エンジンの部分)「Beacon Chain」を組み込んだ。
従来は、地球を周回する人工衛星であったが、新たなエンジンを搭載したことで、他の惑星まで飛行できると形容している。

出典: Ethereum

マージ後の運用状況

イーサリアムはブロックチェーンで暗号通貨イーサ(Ether)を運用しており、ビットコインに次ぎ世界で二番目の取引量となる。
マージが完了し、ブロックチェーンの構造は大きく変わったが、一般消費者は継続してイーサを使うことができる。

特別なアクションは不要で、イーサ向けのワレットで売買処理を実行できる。ただ、米国の金利上昇に伴い、暗号通貨が売られ、イーサの価格はピークの4,644.43ドルから大きく下落している(下のグラフ)。

出典: Google Finance

分散アプリについて

イーサリアムは、ビットコインとは異なり、ブロックチェーンで多彩な分散アプリケーション(Dapp)が稼働している。イーサリアムは「Smart Contract」という機能を提供しており、これを使って分散型アプリケーションを開発する。

その代表がメタバースで、イーサリアムに3D仮想都市が構築されている(下のグラフィックス、Decentralandの事例)。

土地や施設や商品は、イーサリアムに構成されるトークンと位置付けられ、ここで独自の暗号通貨を使って売買する。また、多くのNFTはイーサリアムに展開され、デジタルアートやデジタルグッズを売買する。

マージにより、イーサリアムで稼働している分散アプリケーションは、最小限の変更で継続して利用できる。

出典: Decentraland

PoSの検証者になると

前述の通り、新しいイーサリアムでは、検証者になるために担保を差し出す必要があり、その額は32ETH(約700万円)からとなる。検証者になると、検証作業をする順番を待ち、指名されるとそれを実行する仕組みとなる。

指名の順番は、担保の金額により決められ、多額の担保を積むと順番が早く回ってきて、収入が増える。また、以前のイーサリアムと同様に、検証者は、プロセッサやストレージの使用量として「ガスフィー(Gas Fee)」を受け取る。

これはシステム運用にかかる費用への対価で、検証者はトランザクション毎にこれを受け取る。

電力消費量が激減

マージ後に、イーサリアムの電力消費量のデータが公開され、実際に大きく低下したことが明らかになった(下のグラフ)。

イーサリアムが運用を始めた9月15日は、電力消費量が激減し、年換算で3.40TW(Tera Watt Hour)となった。前日は77.77TWで、削減率は95.63%となる。因みに、従来のイーサリアムの電力消費量は人口1,960万人のチリに相当する。

出典: Digiconomist

ビットコインのマイニング

これに対し、ビットコインの電力消費量は97.11TWで、フィリピン一国の電力消費量に相当する。2021年5月、中国が暗号通貨のマイニングを禁止したため、システム運用状況が一変した(下のグラフィックス)。

それまでは、マイニングの中心は中国であったが、規制を受けてマイナーは中国を脱出し、米国に拠点を移している。今では、世界の中で米国がマイニングの中心地となり、エネルギー問題が深刻化している。

米国の中でもジョージア州にマイナーが集中している。同州は原子力発電所を運用しており、マイナーはこの電力を使ってビットコインのマイニングを実行している。

出典: Visual Capitalist

マイニングの問題

ビットコインのマイナーは、大量の二酸化炭素を排出していると、社会から厳しい批判を受けている。このため、マイナーは原子力発電や再生可能電力でマイニング処理を実行し、この批判をかわしている。

しかし、PoWのマイニングという処理は、ビットコインのブロックを生成する権利を確保するためのもので、社会的な恩恵は無く、無駄な処理として認識されている。

ビットコインが社会的に容認されない理由の一つがマイニング処理で、企業や社会にとっては、持続可能な社会を実現するための概念ESG(環境・社会・ガバナンス)と相容れないものになる。

ブロックチェーンの再評価と危険性

このような社会環境の中で、イーサリアムはマージを実行した。

電力消費量は激減し、地球環境にやさしいシステムとなり、企業から暗号通貨が再評価されるとの期待が広がっている。

一方、ブロックチェーンは銀行など中央組織を必要としない分散型金融システムとして誕生したが、マージによりイーサリアムは分散型から集中型に向かう危険性が指摘されている。

PoSでは検証者になるために担保を差し入れるが、巨大テックなどが巨額のイーサを差し出し、ブロックチェーンをコントロールする危険性が懸念されている。

期待と危険が混じり合い、新しいイーサリアムが運用を開始した。