[No.48] ゼレンスキー大統領のフェイクビデオが登場、Metaは即時にこれを検知し記事を削除、AIを使ったデジタル戦が拡大
ウクライナ(Ukraine)政府はロシアがフェイクビデオを使って情報操作する危険性を表明し、国民に冷静な対応を呼びかけていた。
実際に、ゼレンスキー(Zelensky)大統領のフェイクビデオがメディアに掲載された(下の写真)。偽の大統領は国民に、武器を捨ててロシアに投降するよう呼びかけた。
MetaはこのビデオはDeepfakesであると判定し、プラットフォームから削除した。戦時下においてはAIを使った情報戦が展開されるが、今回はそのプロトタイプが登場し、デジタル兵器の攻防が始まった。
ゼレンスキー大統領の偽ビデオ
3月16日、ゼレンスキー大統領がビデオメッセージで、国民に武器を捨ててロシアに投降するよう呼びかけた。
これはウクライナに対する情報戦で、ビデオはアルゴリズムにより生成されたDeepfakesで、本人の演説ではない。
Metaはこれをフェイクビデオであると特定し、プラットフォームから記事を削除した(下の写真)。
ロシアがウクライナに侵攻した後、Metaは特別チーム「Special Operations Center」を形成し、24時間体制で情報操作をモニターしており、このフェイクビデオを即座に検知することができた。
ロシアでビデオが拡散
このフェイクビデオはMetaのプラットフォームからは削除されたが、他のソーシャルネットワークで拡散している。
メッセージングアプリ「Telegram」にこのフェイクビデオが掲載され、ここには、「ハッカーがウクライナのサイトにこのビデオを掲載した」とのコメントが添えられている (先頭の写真)。
また、ロシアのソーシャルネットワーク「VK」にも同じビデオが掲載され、クレムリンを指示するグループで拡散している。
テレビ局のハッキング
これに先立ち、ウクライナのテレビ局「Ukraine 24」がハッキングされ、テレビ画面に偽のテロップが表示された。
フェイク・テロップはニュース画面の下部に表示され、ゼレンスキー大統領からのメッセージと偽り、「戦闘を止め武器を捨てる」よう国民に訴えた(下の写真、最下部)。
また、「大統領は交渉に失敗し、キエフを去った」とも伝えている。
ゼレンスキー大統領の対応
フェイクビデオに対し、ゼレンスキー大統領はショートビデオを公開し、偽情報を打ち消した(下の写真、Instagramから配信)。
ショートビデオで、拡散したビデオは偽情報で、つたない手法の攻撃であると非難した。
大統領はオフィシャルサイトから、定常的に国民にメッセージをショートビデオで配信しており、今回も、このアカウントから真実の情報を伝えた。
フェイクビデオの完成度
実際に、フェイクビデオを見ると、完成度は低く、これは本物ではないと感じる。
頭部が体に比べて大きく、不自然さを感じる。また、喋っている時に、頭部は動くが、体は不動のままで、強い違和感を覚える。Deepfakesを生成する高度なGANが開発されているが、このビデオは技術的には未熟で、完成の域に達していないことが分かる。
このフェイクビデオはプロトタイプと解釈することもでき、これから技術改良が進み、判別が困難になると予想される。
Metaの特別チーム
ロシアはフェイクニュースなどを使って情報戦を展開しており、西側諸国が被害を受けている。
米国においては、2016年の大統領選挙で、ロシアは大規模な情報操作戦を展開し、これがトランプ大統領の当選に繋がったとされる。
Meta(当時はFacebook)は、ネットワークに掲載された偽情報を削除するなどの措置は取らず、米国社会から強い批判を受けた。
これを教訓に、2020年の大統領選挙では、特別チームを形成し、偽情報をリアルタイムでモニターし、ロシアのデジタル攻撃を防いだ。ロシアのウクライナ侵攻では、再度、独別チームを形成し、デジタル戦を防衛している。