[No.47] 戦時下におけるAIの役割、ウクライナ軍は顔認識システムでロシア兵士のIDを特定
ロシア軍によるウクライナ(Ukraine)への軍事侵攻が新たな局面を迎えている。
ロシア軍は首都キエフ(Kyiv)に迫っているが、ウクライナ軍の反撃が続き、侵攻は足踏み状態になっている。ウクライナ軍は本土防衛のために、AIなどのハイテクを導入することを明らかにした。
高精度の顔認識システムを導入し、ロシア兵士のIDを特定し、デジタルな防衛網を構築する。
(ウクライナ政府は民間施設が攻撃されていることを示し(下の写真)、防衛のための寄付を暗号通貨で募っている。)
顔認識システム
ウクライナ国防省は顔認識システムの利用を開始したことを明らかにした。
これは米国新興企業Clearviewが開発したもので、通信社ロイターが報道した。
Clearviewは世界で最大規模の顔データベースを構築し、その判定精度は業界のトップである。Clearviewはこのシステムを無料でウクライナ軍に提供し、ロシア兵のIDを特定するために使われる。
ロシア兵のIDの特定
顔認識システムはロシア兵士の身元を特定するために使われるが、具体的には、攻撃を行ったロシア兵士の氏名などを把握する。
また、死亡したロシア兵士の身元の特定のためにも使われる。戦士のIDを特定するためには指紋が使われるが、顔認識システムだと、その場で顔写真から身元を特定できる。
ロシア軍は工作員を市街地に送り込み、破壊作戦を展開している。
このため、チェックポイントなどで顔写真から、ロシア兵士を特定するためにも使われる。
難民の身元の特定
顔認識システムは難民の身元を特定するためにも使うことができる。
多くの人が戦火を避け、ウクライナを離れ、ポーランドなど近隣諸国に避難している。
難民の多くは家族が離散し、再会が難しくなる。このため、顔認識システムで身元を特定し、家族の再会に役立てる。
また、ソーシャルネットワークに掲載されている顔写真を解析することで、情報操作のための偽装工作を見破ることもできる。
ロシア人の顔写真データベース
Clearviewは世界の人物の顔写真100億枚を収集し、これを顔認識システムのデータベースとして使っている。
被験者の顔写真をこのデータベースで検索し、本人のIDを割り出す。ここには、ロシア人の顔写真20億枚が含まれており、ロシア人のIDを高精度で特定することができる。
ロシアの人口は1.4億人で、単純計算で、一人当たり14枚の顔写真が格納されていることになる。
顔写真の収集方法
Clearviewはソーシャルネットワークに公開されている顔写真をスクレ―ピングしてデータベースを構築した。
スクレ―ピングとは、顔写真やその属性などを、ウェブサイトからダウンロードする手法を指す。
Clearviewはロシアのソーシャルネットワーク「VK」(下の写真)から顔写真をスクレ―ピングした。
VKはロシア・セントペテルスブルグ(Saint Petersburg)に拠点を置く企業で、会員数は5億人を超え、ロシアで一番人気のソーシャルネットワークである。
倫理的な使い方
Clearviewのスクレ―ピングの手法は個人のプライバシー侵害にあたるとして問題視されている。
米国では、集団訴訟が起こり、Clearviewの手法が法廷で問われている。
イギリス政府は、Clearviewは個人情報保護法に抵触するとして制裁金を科した。
カナダやオーストラリア政府は、Clearviewに対し、個人情報を削除することを求めている。
多くの問題を抱えているが、戦時下においては国防に役立つとして、Clearviewの技術に期待が寄せられている。
ハイテクを導入
顔認識システムとは別に、ウクライナのデジタル・トランスフォーメーション省は、米国のAI技術を導入することを計画している。
既に、欧米企業はウクライナ政府にインターネット通信機器やサイバーセキュリティ・ツールを提供している。
SpaceXは衛星通信システム「Starlink」の受信装置(下の写真右側)を提供している。ウクライナで地上の通信網が被害を受けているが、衛星通信でインターネットを再構築する。
実際に、ウクライナ副首相は、Starlinkの受信装置 (左側)を受領したとツイートし、Elon Muskに謝意を示した。
サンフランシスコでの反戦集会
世界各地でウクライナを支援する集会が開催されているが、サンフランシスコでは市庁舎の前で反戦集会が開かれた。
ベイエリアには多くのウクライナ人が暮らしており、数百人が反戦集会に参加し、プーチン大統領にウクライナから撤退するよう呼びかけた。
サンフランシスコ市はウクライナを支援する意思を表明するために、市庁舎を国旗の色にライティングしている(下の写真)。