[No.213]トランプ政権はAI規制からAI安全技術標準化と開発支援に方向転換、「AI Safety Institute」を「Center for AI Standards and Innovation」に改名しAI製品の安全検査を企業の判断に委ねる
トランプ政権は6月3日、米国のAI政策を大幅に見直し、規制強化から安全技術の標準化とイノベーションを促進する方向に大転換した。
商務省のハワード・ラトニック(Howard Lutnick)長官が明らかにした。現行の「AI Safety Institute(AI安全管理室)」の名称を「Center for AI Standards and Innovation(AI標準化・技術推進室)」に改名した。新組織は、AIモデルの安全を検証するベンチマーク試験などの安全技術の開発を重点的に進める。AI開発企業は安全基準に準拠することを自主的に検証する。
トランプ政権は米国がAI技術で世界をリードする政策を展開しているが、今回の組織改正はこのビジョンを反映したものとなる。

組織名称の変更
国務長官はAI安全政策を大きく見直し、組織名称を「AI Safety Institute(AISI、AI安全管理室)」から「Center for AI Standards and Innovation(CAISI、AI標準化・技術推進室)」に改名することを明らかにした。
AISIはバイデン政権で設立された組織で、AIを安全に開発運用するための技術開発をミッションとした。
これに対し、CAISIは、AISIで開発された安全技術を継承し、これにAI開発を推進するミッションを追加する。
安全技術の標準化
国務長官はAI規制を義務化することはAI開発の妨げになるとして、企業が自主的に規定に準拠すべきとの立場を取る(下の写真)。
国務長官は「安全規格への準拠を義務付けることが技術革新の妨げとなっており、イノベーションの障害とならない標準技術を制定する」と述べた(先頭の写真)。このためにCAISIはAI安全技術の標準化を進め、企業はこれを使ってAI製品の安全性を検証する。
具体的には、安全試験の実施は企業の判断に委ね、また、試験結果を非公開とすることで、企業の知的財産権を保護する。

安全なAIを開発するためのアクション
CAISIは連邦政府における民間企業との窓口となり、安全技術や新技術を共同で開発する。この目的に沿って、CAISIが実施すべきアクションプランが規定された:
- 安全ガイドラインの制定:AIシステムのセキュリティを評価する技法とそれを改良する手法について、ガイドラインやベストプラクティスを制定する。民間企業と共同で安全検査技術を開発しこれを標準化する。
- 民間企業との契約:民間企業がAI製品の安全性を検査することに関する契約を制定する。安全検査の実行は企業の判断に委ね、また、検査結果は非公開とする。AI製品のリスクをサイバーセキュリティやバイオセキュリティなど、国家安全に関連するものと位置付ける。
- AIシステムの評価報告書:米国や敵対国のAIシステムの能力に関する報告書を作成する。国際社会におけるAI開発競争の状況をモニターしこれを報告する。
- セキュリティの脆弱性の検知:敵対国のAIシステムによる攻撃に対する脆弱性や情報操作などの攻撃を把握する。AIを悪用したサイバー攻撃の検知を強化する。
- 連邦省庁との連携:国防省など連邦省庁と連携しAIシステムの評価技法を開発し、この技法に従って評価を実行する。
- 他国のAI規制との整合性:他国のAI規制から米国のテクノロジーを守るための代表部門となる。米国のAI技術が国際標準となるよう研究開発を進める。
安全検査を自主規制
バイデン政権ではAI開発企業が製品を出荷する前に安全検査を実施することを義務付けたが、トランプ政権はこの規制を緩和し、安全検査の実施を企業の判断に任せるとしている。
また、安全検査の方式を官民共同で開発し、これを安全性評価のための標準技術とする。
標準技術の制定では、企業や関係団体から意見をヒアリングし、これらを反映した内容とする。

EUとの整合性
EUは既にAIを運用するための規制法「EU AI Act」を運用しており、欧州で事業を展開するためには、この規制に準拠することが求められる。
これに対し商務長官は、アメリカの技術を外国政府が不当に規制することから防衛すると述べており、CAISIがこの任務を担うことになる。
CAISIがアメリカ政府を代表する組織として、EUなどとAI規制に関する運用条件を調整することになる。
AI規制を緩和すると言うが。。。
CAISIによりAI製品を評価するためのベンチマークなど安全評価技術が開発され、この規定がAI企業に大きな影響を与える。
安全評価テストの実施は企業の判断に委ねるとしているが、大手企業はこれに準拠する公算が強い。EU AI ActはAIモデルを運用する企業に厳しい規定を課しており、米欧間のAI規制の互換性の調整が大きな課題となる。
一方、トランプ政権はAIの規制緩和を推進すると表明しているが、商務省の発表内容を読むと、バイデン政権の指針と大きな差異は認められない。
ただ、AI規制の詳細はこれから制定されるので、実際にどのような枠組みとなるのか詳細をフォローしていく必要がある。