[No.17] Googleが産業用ロボット市場に進出、高度なAIでロボットのソフトウェアを開発、日本企業との競争が始まる

Googleの親会社であるAlphabetは、産業用ロボットを開発するため独立会社「Intrinsic」を創設した。

ロボットはムーンショット工場「Alphabet X」で開発されてきたが、ここを卒業し独立企業として製品化を目指す。
Intrinsicは、ロボットの頭脳となるソフトウェアを開発する。

日本企業は産業用ロボットで大きなシェアを占めているが、ここでGoogleとの競争が始まることになる。

出典: Intrinsic

Intrinsicの概要

Intrinsicは、産業用ロボット(Industrial Robotics)のソフトウェアを開発する。
ロボット本体のハードウェアではなく、その頭脳となるソフトウェアを開発する。

産業用ロボットとは製造工場で組み立て作業などを行うロボットで、ソーラーパネルや自動車の製造ラインで使われる。

​つまり、Intrinsicは家庭向けのヒューマノイドではなく、製造ライン向けにロボットアームを稼働させるソフトウェアを開発する。

産業用ロボットを開発する理由

Intrinsicが産業用ロボットを開発する理由は、製造業を中国から米国や欧州などの先進国に戻すためである。

国際経済フォーラムによると、現在、全世界の製造量の70%を10の国が担っている(下のグラフィックス)。
特に、中国はその28.4%を占め、世界の工場として稼働している。

​Intrinsicが開発するロボットを使えば、どこにでも簡単に製造ラインを構築できる。
各国が自国に製造施設を持つことができ、新たなビジネスが生まれる。

更に、消費地に近い場所で製造することで、製品を輸送する距離が短縮され、地球温暖化ガスの削減につながる。

​特に、米国は自国に製造業を呼び戻す政策を進めているが、2030年までに作業員が210万人不足すると予想され、これを産業用ロボットで補完する。

出典: Statista

現行の産業用ロボットの限界

現在、家電製品や自動車の製造で産業用ロボットが使われているが、そのテクノロジーは旧態依然のままであり、これがロボットの普及を妨げている。

​産業用ロボットのソフトウェアは特定のタスクを実行するために書かれている。
これはハードコーディングと呼ばれ、例えば、部品の溶接ではそれ専用にコーディングする。

​また、パネルを接着してケースを作るには、そのタスクに特化したコーディングをする。

​このため、タスクごとにソフトウェアを開発することになり、多数のエンジニアを必要とし、完成するまでに時間を要す。

Intrinsicのアプローチ

これに対し、Intrinsicは高度なAIを使いインテリジェントな産業用ロボットを開発する戦略を取る。

​チームは数年にわたり、産業用ロボットの視覚機能、学習能力、補正能力などを開発してきた。

​具体的には、オブジェクト認識技術(Perception)、深層学習(Deep Learning)、強化学習(Reinforcement Learning)など最新のAI技法を開発し、幅広いタスクを実行できる産業用ロボットを目指している。

出典: Intrinsic

プロトタイプの検証

Intrinsicはこれらの機能を実装したプロトタイプを制作しその機能を検証した。

ロボットは深層学習とフォース制御機能を搭載することで、異なる形状のUSB端子を正しい場所に最適な力で挿入することができる(上の写真)。

​開発に要した時間は2時間で、短時間で複雑な操作ができるロボットの開発に成功した。
​また、視覚機能や計画機能を搭載することで、二台のロボットが共同で家具のパネルを組み立てることができる(下の写真)。

出典: Intrinsic

更に、ロボットが協調して木造家屋を組み立てることができる(下の写真)。

これはチューリッヒ工科大学(ETH Zurich)のGramazio Kohler Researchで実施されたもので、四台のロボットが協調して家屋のパネルを組み立て接着剤で固定する。

​製造現場では多様なタスクを実行する必要があるが、プロトタイプは短時間で開発され、ロボットが汎用的な作業ができる目途がついたとしている。​

出典: Gramazio Kohler Research, ETH Zurich

ムーンショットを卒業

チームはムーンショット工場「Alphabet X」(下の写真)で5年半にわたり、プロトタイプの開発を進めてきたが、これからはIntrinsicで産業用ロボットの商用化を目指す。

​対象分野は家電産業や自動車製造やヘルスケアで、パートナー企業と商用モデルを開発する。

出典: VentureClef

ロボット開発の歴史

Googleのロボット開発は2013年に始まり、Boston Dynamicsなど6社を相次いで買収した。
​この中には日本企業Schaftも含まれていた。

​ロボット開発プロジェクトは「Replicant」と呼ばれ、Androidの生みの親Andy Rubinの下で進められた。
​しかし、プロジェクトで目立った成果は無く、GoogleはReplicantを中止した。

ロボット開発を再開

その後、Googleはソフトウェアに重点を移し、ロボット開発を再開した。
コア技術であるAIを駆使しインテリジェントなロボット開発を進めてきた。

その最初の成果が「Everyday Robots」で、家庭やオフィスで日々のタスクを実行するロボットを発表した。

この開発ラインから分岐し、Intrinsicは産業用ロボットを開発する。

​産業用ロボット市場では多くの企業から製品が投入されており、これから日本企業など先行企業との競争が始まることになる。