[No.144]ホワイトハウスはAI大統領令の実施状況を公表、予定通り進行していることをアピール、しかし政権が変わるとAI政策が白紙になる危険性が指摘される

バイデン政権は昨年10月、AIの安全性に関する大統領令に署名し、米国企業に責任あるAI開発を求めた。

今週、ホワイトハウスは大統領令の実施状況を公表し、規定された項目が予定通り進んでいることをアピールした。

しかし、今年の大統領選挙で政権が変わると、大統領令は停止される可能性があり、米国のAI政策が岐路に直面している。

出典: Adobe Stock
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大統領令の概要

バイデン大統領は昨年10月、責任あるAI開発と技術革新を推進するため、大統領令「President’s Executive Order on Safe, Secure, and Trustworthy Artificial Intelligence (14110)」に署名した。

大統領令は、AIが悪用されないため、セーフガードを設け、生物兵器の開発やサイバー攻撃を防ぐことを目的とする。また、AI開発企業には、大規模モデルの安全性に関する試験を実施し、その結果を報告することを求めた。

米国政府はAI規制に消極的であったが、大統領令で政策を一転し、AIの危険性を制御しつつイノベーションを推進する方針を打ち出した。

90日目のチェックポイント

ホワイトハウスは大統領令を発行して90日目となる今週、その進捗状況を公表した。

大統領令はAI規制に関し、実施項目(Action)と責任組織(Agency)と完了日(Required Timeline)が定められている。各省庁はこのアクションプランに沿って、規定された項目を期日までに実行することが求められる。

発表によると、90日以内に実施する項目については、全て予定通り完了した(下のテーブル、一部)。

出典: White House
出典: White House

アクションプランの主な成果

大統領令は広範なアクションを定めているが、AI開発企業に大規模言語モデル(ファウンデーションモデル)の安全性を試験し、その結果を報告することを義務付けている。

この項目は、商務省の管轄で、90日以内にタスクを完了することを求めている。

具体的には:

  • モデルの安全性に関する試験 :法令「Defense Production Act」に従ってAI開発企業にファウンデーションモデルの安全性を試験することを要請。(注:対象はGPT-4を超えるモデルで、次世代の生成AI開発でこの規定が適用される。)
  • モデルの開発状況の監視:クラウド事業者に外国企業がファウンデーションモデルを開発していることを監視し、それを報告することを求めた。この規定に関するドラフトが完成。(注:外国企業が米国のクラウドでファウンデーションモデルを開発することを規制する。)

大統領令の限界

大統領令は米国の大統領が発行する命令(Directive)で連邦省庁の運営を管理する効力を持つ。

法令とは異なり、連邦政府内に閉じて効力を持つ。また、大統領令は既存の法令の範囲で制定され、これに抵触する際は裁判所によりその効果が停止されることもある。

大統領令は強制力や罰則規定は無く、連邦省庁の自主的な運用に委ねられる。

連邦議会の役割

このため、AI規制を安定して実施するためには、連邦議会による法制化が必須となる。

責任あるAI開発を企業に求めるためには、議会が法律として制定し、開発や運用の手法を義務付ける必要がある。これにより、政権が変わってもAI政策が引き継がれることになる。

米国連邦議会は、AI規制法に関し可決した法令は無いが、法令制定に向けた機運が高まってきた。

AI規制法の動き

民主党のChuck SchumerはAI規制法の準備をけん引しており、公聴会「AI Insight Forum」(下の写真)を9回開催し、法案の準備を進めている。

また、民主党のChris Coonsなどは、ディープフェイクを禁止する法案「NO FAKES Act」を提案している。特に、人気歌手テイラー・スウィフトの不適切イメージがAIで生成され、ソーシャルメディアで拡散し、国民的な問題となった。

ディープフェイクを禁止する法令が喫緊の課題となり、その動きが注目されている。

出典: AI Insight Forum
出典: AI Insight Forum

AI政策を継続するためには

AI規制に関しては、中国を念頭に国家安全保障にかかる問題で、ここは民主党と共和党が歩み寄れる領域とも言われる。

大統領選挙が11月に実施されるが、仮に政権が変わったとしても、積み上げてきたAI政策を継続するためには、連邦議会による法制化が必須の要件となる。