[No.220]トランプ大統領は「AIアクションプラン」を発表、AI開発とインフラ整備を加速、企業にAIモデルをオープンソースとして公開することを求める、”アメリカンAI”を国際標準技術として輸出し世界で覇権を握る

ホワイトハスは7月23日、トランプ政権のAI基本政策「AI Action Plan」を公開した。

これは米国連邦政府のAIに関する基本指針と計画書で、各省庁にこれに沿ったアクションを求める構造となる。AI活動指針は三つの柱から構成され、AI開発の加速、インフラの整備、技術の標準化で、これを達成するための活動項目を定めている。

トランプ大統領はAI基本政策に関する基調講演を行い、アクションプランに関する大統領令に署名した(下の写真)。

出典: White House

トランプ政権のビジョン

活動指針「AI Action Plan」(下の写真)はAI開発を1960年代の宇宙開発競争に例え、米国が勝利しなければならないとしている。

また、スタートアップ企業や大学研究機関の技術革新を支援するため、巨大テックはAIモデルをオープンソースとして公開することを求めている。

更に、“アメリカンAI”を同盟国に輸出し、これをグローバル・スタンダードとすることで、米国が世界で覇権を握る構想を打ち出した。

出典: White House

バイデン政権からの転換

トランプ大統領は就任直後、大統領令「Executive Order 14179」に署名し、AI政策に関する新たな指針を明らかにした。

これはバイデン政権のAI規制を撤廃し、AI開発を推進するための基本機軸を提唱したもので、90日以内に具体的なアクションプランを制定することを求めた。

AI Action Planはこれに従って策定され、AI技術革新の加速、AI開発のためのインフラ整備、“アメリカンAI”のグローバル展開の三つの基軸からなる。

基本指針1:AI技術革新の加速

アクションプランはAI規制を緩和することでAI技術開発を加速することを基本指針とする。

また、AIがバイアスすることなく公正であることを求め、NISTに対しこれを検証するための評価技法の開発を求める。更に、アクションプランはAI開発企業にモデルをオープンソースとして公開することを求める。

これにより、スタートアップ企業は技術革新を生み出し、また、米国が標準技術を提供することで世界におけるAI開発のリーダのポジションを維持する。

基本指針2:AI開発のためのインフラ整備

アクションプランはAI開発のためのインフラ整備にかかる認可のプロセスを簡素化し短期間で施設建設できるよう求めている。

これにより、データセンタの建設、半導体工場の建設、及び、送電網の整備における認可の手順が簡素化され、短期間で開発インフラを整備する。

また、セキュリティの強化を求めており、AIのインシデントを管理する組織「AI ISAC」を創設し、情報を連邦政府で一元管理する体制の構築を求めている。

基本指針3:アメリカンAIのグローバル展開

アクションプランは米国がアメリカ製AI「American AI」を同盟国に提供し、国際社会で連携することを求めている。

中国がAIモデルをオープンソースとして公開し、国際社会で存在感を拡大している。これに対抗する政策で、米国がAIプロセッサやAIモデルなど「AIスタック」を同盟国に輸出することでリードを維持する戦略となる。

また、米国政府は民間企業と共同で、フロンティアモデルが内包するリスクを検証する。

具体的には、サイバー攻撃への脆弱性やCBRNE兵器製造の危険性を査定する。

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オープンソース

アクションプランはAI開発企業にモデルをオープンモデル(オープンソース及びオープンウエイト)として公開することを求めている。

スタートアップ企業やアカデミアはオープンモデルを使うことで、技術革新を加速する。また、連邦政府はオープンモデルを導入することで、機密データを組織内で処理することで、安全にAIモデルを運用する。

また、オープンソースモデルは米国の価値観を内包するシステムで、これをグローバルに展開することで、ビジネスや基礎研究における国際標準規格を構築し、グローバルな覇権を握る。

モデル評価技法

アクションプランはAIモデルの性能と機能を評価する技術の開発を求めている。

バイデン政権はAI開発企業にモデルの安全評価を実施することを義務付けたが、トランプ政権はこの規制を撤廃した。アクションプランは連邦政府がモデルを評価するためのガイドラインの策定を求めている。

また、コンソーシアム「NIST AI Consortium」を設立し、ここで測定科学に関する技法の開発を求めている。

更に、長期的な視点では、アクションプランは連邦議会がAIモデルの性能や機能を測定する法令の制定を求めている。

著作権とフェアユース

トランプ大統領はアクションプランの発表イベントで講演しAIの基本指針を明らかにした(下の写真)。

その冒頭で大統領はAIモデルの開発と著作権の関係についての解釈を示した。AIモデルの開発で教育データとして様々なコンテンツを読み込むが、これはフェアユースであり著作権を侵害するものではないとの見解を明らかにした。

AIモデルは著作物をコピーするのではなく、その意味を学習するもので、常識的な解釈が必要になると述べた。

出典: White House

バイアスに関する解釈

アクションプランはバイアスについてトランプ大統領のビジョンを反映した解釈を示している。

バイデン政権ではAIモデルのバイアスは消費者を差別する判断など個人の権利の保護を指標とした。これに対し、トランプ政権ではバイアスとは「Woke AI」を指し、リベラルなAIを廃絶する指針を示した。

多様性・公平性・包括性を評価するAIは過度にリベラルとし、これを制限し中立なAIモデルの開発を求めている。

中国とのAI競争に勝利する

トランプ大統領はグローバルなAI開発競争で中国に勝利し主導的な立場を維持することを最重要指針とする。

AI市場で覇権を握るためには、エコシステムを拡大し、米国がAIにおける標準技術を定め、これを世界市場に提供する戦略を取る。これにより国内では、経済効果を高め防衛能力を拡大する。

米国が宇宙開発競争で勝利したように、AI開発において同盟国と提携し、この競争を勝ち抜く。

アクションプランが勝利のための戦略を規定し、米国は官民が連携しAI技術革新を加速する。