[No.42] 米国でNFTブームが続くなか模造品の販売が広がる、メタバースにおける知的財産権の管理が最大の課題
米国でNFT取引がブームになっている。簡単にNFTを生成でき、これを高値で販売して、短時間でリッチになれる。
NFTとは、ブロックチェーンで稼働するトークンで、デジタルアセットの所有権を示す。
NFTは新しいコンセプトで、その仕組みは正しく理解されていない。このため、NFT売買で不正行為が始まり、消費者やクリエーターが被害にあっている。
メタバースでデジタルアセットの販売が始まるが、その知的財産権の管理が大きな課題となる。
NTFでリッチになれる
NFTで短時間に利益を得る行為は「Get-Rich-Quick」と呼ばれ、米国社会で話題になっている。
多くの実例が報道され、これがNFTブームを押し上げている。先月、ジョージア州アトランタ郊外に住む二人の女性は、アヒルをテーマとするデジタルアートを創作し、それをNFTとして販売したところ(上の写真)、6時間で12万ドル(約1400万円)の収入を得た。
二人は生活費に困る生活をしていたが、収入を土地のローン支払いに充て、差し押さえを回避したと報道された。
NFTが高値で売れる仕組み
このNFTは1万点から成るアヒルのデジタルアートで、「Dastardly Ducks」と命名され販売された。
デジタルアートはプログラムで生成され、同じテーマを保ちながら、パターンを変化させることで、1万種類のデジタルアートを生成した。
これらがNFT収集家により購入され、短時間で高収入を得た。今では、これらのデジタルアートが、NFT収集家により転売されている。
1点の値段は0.0036 ETH (Ethereum) で、今日の相場では 10.60ドルとなる。
アヒルのデジタルアートに10ドルの価値があるのか判断が分かれるが、値上がりが期待できるとして、NFTの売買が進んでいる。
NFTとは
NFTとはブロックチェインで構成されるトークンで、デジタルアセットなどの所有権を示す証文となる。
NFTのデータは、ブロックチェインの分散データベースで安全に管理される。上記のケースでは、NFTはブロックチェイン「Ethereum」で運用されている。
更に、NFTの売買に関する規定は、スマート契約機能「Smart Contracts」でプログラミングされる(下の写真)。
アヒルのアートはこの契約に基づき、マーケットプレイス「OpenSea」で売買された。
模造品の販売
NFTという新しい事業モデルで市場が急拡大しているが、同時に、様々な違法行為が発生している。
デジタルアートは簡単に複製できることから、その模造品が生成され、マーケットプレイスで販売されている。
Eコマースサイトで、ブランド品の模造品が販売されるように、盗用したデジタルアートのNFTが販売されている。
しかし、デジタルアートは複製したものと見分けはつかず、犯罪行為を防ぐのは容易ではない。
被害が広がっている
テキサス州サンアントニオに住むアーティストAja Trierは、犬をモチーフにしたデジタルアート「Starry Night Dogs」を制作している。
犬の背景が、ゴッホの星月夜「The Starry Night」のデザインで、独特の筆遣いがデジタルアートに取り込まれている。
TrierはこのデジタルアートをNFTに変換し、マーケットプレイスで販売している(下の写真)。
このデジタルアートが盗まれ、犯罪者はこれをNFTに変換し、マーケットプレイスで販売していることが判明した。
簡単に複製でき被害が広がる
犯罪者は、デジタルアートのファイルをダウンロードし、それをNFTに変換して販売する。
デジタルファイルをNFTに変換するプロセスは「Mint」と呼ばれ、ブロックチェインでトークンを生成する作業となる。
このプロセスはシンプルで、技術の知識は必要なく、誰でも容易に実行できる。
今では、この盗用作業がソフトウェア・エージェント(Bot)で実行され、被害が広がる要因となっている。
模造品への対応
クリエーターは、自分の作品がコピーされ、NFTとして販売されていれば、そのサイトの管理者に連絡し、それを取り下げてもらう措置を取る。
また、NFTが取引されるマーケットプレイスは数多くあり、これらのサイトで模造品の販売をチェックする必要がある。消費者は、NFTを購入する前に、デジタルアートの持ち主を確認し、被害を防ぐことが求められる。
NFT市場が拡大するが、消費者を保護する仕組みは無く、詐欺にあわないためには、自分で防衛するしか手は無い。
メタバースが抱える最大の課題
メタバースではデジタルアセットの売買が主要な収入源となると期待されている。
デジタルアセットは、デジタルアートの他に、写真(下の写真)やコレクタブルなどが対象となる。
これらがNFTとして売買されるが、模造品による犯罪行為が懸念されている。
簡単に複製できるデジタルアセットを如何に安全に取引できるかが課題となる。
【NFTの法的解釈】
デジタルアートとNFTの関係
NFTは新しいコンセプトで、これに関連する知的財産権(著作権や商標権など)の理解が進んでいないことが、被害を拡大する要因となっている。
NFTの売買条件は「Smart Contract」で規定されるが、多くのケースで、NFTだけを購入する条件となっている。
具体的には、購入者は、NFTとデジタルファイルを得るが、デジタルアートの知的財産権は含まれていない。
つまり、NFTを購入しても、デジタルアートの知的財産権を得ることはできない。
現実社会でのアート取引とは異なり、購入者はNFTを得るが、デジタルアートの所有権を得るわけではない。
NFTを購入する際は、NFTを高値で購入してもアートの所有者にはなれないということを理解しておく必要がある。
模造品の販売は違法ではない?
NFTに関する法整備が進んでいない現在では、NFTの模造品を販売することの法的解釈が議論となっている。
犯罪者は、デジタルアートを盗んで、それを販売しているのではなく、そのNFTを販売している。
NFTには知的財産権は含まれておらず、犯罪者は制作者の知的財産権は侵害していないという議論がある。
知的財産権は製作者が所有し、犯罪者はその証文であるNFTというトークンだけを販売している。
ブロックチェインが内包する問題の一つで、これから議論を進め、関連法令の整備が必要となる。