[No.98]米国の国会議員はChatGPTでAIの威力と脅威を実感、連邦議会でAI規制法の制定に向けた機運が高まる
チャットボットChatGPTが社会で急速に普及し、米国の国会議員はAIの危険性に強い懸念を抱いている。
連邦議会はAIの危険性は認識するものの、自動化システムがもたらす恩恵が大きく、これを規制する動きはなかった。
しかし、ChatGPTが米国社会に与えるインパクトは甚大で、これを契機に、連邦議会でAI規制に向けた機運が高まった。
国会議員の呼びかけ
その一人が国会議員Ted Lieuで、AIの危険性を認識し、議会はAIを規制するための行動を起こすことを呼び掛けている。
Lieu議員の選挙区はハイテク企業が軒を連ねるロスアンゼルスで、テクノロジーに関する政策をリードしてきた。
今までは、科学技術の振興策が中心であったが、今回はAI規制に関するアクションを提言している。
ChatGPTで法案を生成
この切っ掛けはChatGPTにある。ChatGPTが米国社会で幅広く使われ、Lieu議員はこのチャットボットで法案を生成した。
議会の法案を執筆するのが国会議員の仕事であるが、これをChatGPTで実行し、その成果を公表した。
これは法案の骨子(Congressional Resolution)で、Lieu議員の指示に従って、ChatGPTがテキストを生成した。
AIが生成した法案はLieu議員のスタイルと考え方を反映している。
AIが生成した法案骨子
Lieu議員はChatGPTに「あなたはLieu議員となり、議会がAIに注目するのを支援するための法案骨子を生成せよ」と指示した。
この内容に従って、ChatGPTは法案骨子全文を生成した(下のグラフィックス)。
この法案骨子は、「議会はAIの開発や運用に責任があり、AIが安全で倫理的で、アメリカ国民の権利を守り、プライバシーを保障する必要がある」という内容となっている。
AIで法案を生成した理由
これは米国においてAIで生成した最初の法案で、Lieu議員はAIの技術進化を評価すると同時に、AIに強い懸念を表明している。
また、Lieu議員は米国メディアに意見書を寄稿し、AIを正しく利用しないと、SF映画で描かれるような破壊的な社会が到来すると警告している。
AIを倫理的に利用することが求められ、今がその行動を起こす時で、AIを規制するアクションを呼び掛けた。
ChatGPTで議会スピーチを生成
また、国会議員Jake Auchinclossも、連邦議会でAIを規制するための法令を整備するよう進言している。
Auchincloss議員はChatGPTで議場で演説するためのスピーチを執筆した。
このスピーチは、米国とイスラエルが共同でAIを開発するための法令に関するもので、議員の指示によりChatGPTがこれを生成し、これを議場で読み上げた(下の写真)。
米国議会のポジション
米国議会はAIに関し、利用を規制するのではなく、イノベーションを重視するポジションを取っている。
AIは社会に多大な恩恵をもたらし、これを規制するのではなく、技術開発を支援することで、革新的なソリューションを生み出すことを期待している。
米国議会としては、この方針を維持し、もしAIで重大なインシデントが発生すると、AI規制法を導入するとの共通の理解がある。
世論の変化
AIでカタストロフィックな問題は発生していないが、近年は国民の世論が変わり始めた。
この切っ掛けはFacebookで、アルゴリズムが有害なコンテンツを拡散し、社会に偽情報が溢れ、AIの役割が問われ始めた。
アメリカ国民はアルゴリズムの危険性を認識し、企業の自主規制は信用できなく、政府が何らかの対策を取るべきとの考え方が広がっている。
ChatGPTショック
米国の国会議員はAIの危険性については、従来から認識しており、対策の必要性を議論してきた。
しかし、ChatGPTの登場で、国会議員自身がAIを使い、その威力を体験することとなった。
同時に、国会議員たちは、AIの恐怖感も実感することになり、その機能を安全に活用するためには法令による規制が必要と感じている。
ChatGPTがAI規制法の必要性を後押しした形となり、2023年はAI規制法制定に向けた活動が始まる年となる。