[No.78]MetaはMRヘッドセット「Quest Pro」を投入、メタバースの構想が製品として結実、企業向けメタバースに比重が移る
Metaは開発者会議「Connect 2022」でメタバース開発の最新状況を公開した。
Metaは、昨年、このイベントでメタバースの構想を示し、数年先のビジョンを提示した。今年は、直近のメタバースに焦点を当て、その適用法やソリューションを示した。
イベントのハイライトは、MRヘッドセット「Quest Pro」(下の写真)の発表で、メタバースにアクセスする技術が大きく進化した。更に、Microsoftとの提携を発表し、メタバースで3Dビデオ会議「Microsoft Teams」を利用できる。
Metaは企業向けのメタバースに比重を移していることが明らかになった。
MRヘッドセット「Quest Pro」
MRヘッドセット「Quest Pro」は、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)を統合したMR(複合現実)機能を実装したウェアラブルとなる。Quest Proを着装すると、現実空間に仮想オブジェクトが組み込まれ、それを実際に手で触ることができる。
例えば、オフィスで社員がQuest Proを着装すると、デスクの上に仮想のモニターが描写され、この画面で業務を遂行できる(下の写真)。
価格は1,499.99ドルで、今月から出荷が始まる。
仮想オフィス「Workrooms」
Metaは企業向けにメタバースを展開しており、コラボレーション・アプリ「Horizon Workrooms」を提供している。
これはメタバースに構築された会議室で、社員はこの空間でコミュニケーションする。Metaは、これを大幅にアップグレードし、個人向けの仮想オフィス「Solo Workrooms」を開発している。
仮想オフィスには三台の大型モニターがセットされ、ここが仕事空間となる(下の写真)。PCやMacBookを買う代わりに、Quest Proでタスクを実行する構想を描いている。
3Dオブジェクト
3D仮想オフィスHorizon Workroomsの機能が強化される。これはデザイナーやエンジニア向けの機能で、会議室でオブジェクトを3Dで見ることができる。
例えば、会議室において、開発中のヘッドセットを3Dで表示し、そのデザインを関係者で議論できる(下の写真)。
MR会議室「Magic Room」
Metaは、現実社会と仮想社会の会議室をミックスしたMR会議室「Magic Room」を開発している(下の写真)。これは実社会の会議室に仮想の人物やオブジェクトを組み込んだ構成となる。
Quest Proを着装して実社会の会議室に入ると、そこに遠隔地の社員がアバターとして参加する。また、この空間でホワイトボードに作図して会議を進めることもできる。
Microsoftとの協業「Teams」
MicrosoftのCEOであるSatya NadellaはメタバースでMetaと協業することを明らかにした。
その第一弾として、Microsoftのコラボレーションアプリ「Teams」をMeta向けに提供する。これによりQuest 2とQuest ProでTeamsを使うことができる(下の写真)。
Microsoftもメタバース開発を進めており、Metaと競合する可能性があったが、この発表で両社は協調路線を歩むことが明らかになった。
アバターに足を付加「Avatar Store」
Metaはアバターに足を付加し全身を描写できるようにした。
現在のアバターは上半身だけで(上の写真)、足の部分は描かれていない。これに足の部分を付加し、完全な身体像を生成できるよう進化した(下のアバター)。
手や腕の動きはヘッドセットのカメラで撮影し、それをアニメーションで表示するが、足の動きを捉えるのは難しい。足がテーブルや腕の陰になり、見えないケースが多く、そのイメージを捉えるのは難しい。
このためMetaはAIを使い、アルゴリズムで足の状態を推定し、イメージを描写している。
また、Metaは「Avatar Store」をオープンし、ここでアバター向けのファッション製品を販売している(下の写真)。
入力モード「Electromyography(筋電図)」
Metaは研究開発中の技術についても、その概要を公表した。その一つがARグラスにデータを入力する方法で、「Electromyography(筋電図)」という技法を開発している。
これは筋肉で発生する微弱な電場をAIで解析し、動作の意図を推定するもの。手首にデバイスを装着し(下の写真右側)、指を動かして方向を指示すると、ゲームの中のキャラクターがその方向に動く(左側)。
これはゲームのキャラクターを動かす事例であるが、その他に、ARグラスを着装して、指を動かして写真撮影をすることができる。
3Dイメージ生成技法「Neural Radiance Fields」
MetaはAIを使って3Dモデルを簡単に生成する技法を発表した。
これは「Neural Radiance Fields」と呼ばれ、カメラで撮影した複数の写真をAIで繋げ、3Dイメージを構築する技法となる。
例えば、クマのぬいぐるみを、スマホで複数の方向から撮影し、これをAIで繋ぎ合わせると、3Dのモデルを生成できる(下の写真)。
3Dモデルを簡単に生成できるため、メタバースを構築する基礎技術として期待されている。
リアリスティックなアバター「Codec Avatars」
Metaは、リアリスティックなアバターを生成する技術を公開した。
このアバターは「Codec Avatars」と呼ばれ、人間の顔の形状や表面の質感を忠実に再現し、ビデオ撮影したものと区別がつかない(下の写真、Mark ZuckerbergのCodec Avatar)。
特殊カメラ170台を使い、被写体の顔を異なる方向から撮影し、これらを合成して3Dモデルを生成する。ハリウッドの映画の特撮などで使われている。
手軽に生成できるアバター「Instant Avatars」
これに対し、Metaはスマホで簡単に3Dアバターを制作する技法を公開した。
これは「Instant Avatars」と呼ばれ、スマホカメラで複数の方向から顔を撮影し、このデータを元にAIが、高精度な3Dモデルを生成する(下の写真)。
Codec Avatarは特殊カメラを使ってアバターを制作するが、Instant Avatarsはスマホで手軽に高精度な3Dモデルを生成できる点に特徴がある。
企業向けメタバースにシフト
昨年の開発者会議では、Mark Zuckerbergは消費者を対象としたメタバースのビジョンを示した。今年は一転して、企業向けに現実の問題を解決するためのメタバースを提示した。
ハードウェアではMRヘッドセットQuest Proを投入し、メタバースは構想の段階から製品化に進んでいることを印象づけた。
ソフトウェアの観点からは、コラボレーションツールWorkroomsなどを中心に、企業向けのソリューションが示された。
メタバースは企業の生産性に寄与することをアピールしたイベントとなった。