[No.6] サンフランシスコ地区は全米で初めて集団免疫に到達、ウイルスの変異や人の移動が続く中どう免疫を維持するかが課題

米国で新型コロナウイルスのワクチン接種が急ピッチで進んでいる。
ペースは地域により大きく異なり、サンフランシスコ地区はワクチン接種率が極めて高く、全米で初めて集団免疫(Herd Immunity)に到達した。

​集団免疫とは地区住民の殆どがワクチン接種を終え、ウイルスの感染が抑え込まれた状態を指す。
​一方、ウイルスの変異や人の往来が進み、集団免疫がコロナの終息に結び付くのか、慎重な意見は少なくない。

出典: VentureClef

ワクチン接種の状況

サンフランシスコ地区では2020年12月から医療従事者や高齢者を対象にワクチン接種が始まった。

​当初はワクチン供給量が少なく、接種対象者が限定されたが、2021年4月からは16歳以上が対象となり、希望するひとすべてにワクチンが行き渡り、接種回数が大幅に上昇した。

集団免疫に到達

このため、サンフランシスコでは少なくとも1回のワクチン接種を済ませた人の割合が72%となった。

​また、シリコンバレー中心部サンタクララ郡でもワクチン接種が進み、少なくとも1回の接種を済ませた人の割合は70.4%となった(下のグラフ、上段)。

​集団免疫については色々な解釈があるが、集団の7割が免疫を持つと感染の連鎖を断ち切れるとの考え方が主流で、サンフランシスコ地区はこのポイントに到達したことになる。

​ただ、日ごとのワクチン接種件数は4月をピークに減少に転じており(下のグラフ)、ワクチン忌避への対応がこれからの課題となる。

出典: Santa Clara County Public Health

感染者数は大きく減少

ワクチン接種が進むなかコロナウイルス感染者数が大きく減少している。

いま、カリフォルニア州が米国で一番安全な場所といわれている。全米でワクチン接種が進むが、カリフォルニア州の接種率が突出しており、これがコロナウイルス感染者数に表れている。

​サンタクララ郡では2021年1月をピークに感染者数が急速に減少し、今では一日の感染者数が98人となっている(下のグラフ)。人口10万人当たりの感染者数は、米国平均は102人であるが、サンタクララ郡は2.7人と低い数字を示している。

出典: Santa Clara County Public Health

集団免疫についての考え方

集団免疫(Herd Immunity)とは、住民の大部分が免疫を持つことで感染病の拡大を防ぐ効果を指す。

​多くの住民が免疫を持てばこれが楯となり、病気感染の連鎖を断ち切ることができる。ワクチン接種で体内に抗体が生成され、これが感染症に対する免疫となる。

このポイントに到達するには

定義は明快であるが、住民の何割がワクチン接種を受けるとこのポイントに到達するかが議論となっている。

​集団免疫は感染の度合いにより決まり、病気が感染しやすい場合は多くの人が免疫を持たないとアウトブレークは止まらない。

​病気の感染のしやすさは基本再生産数(Basic Reproduction Number、略称はR0)と呼ばれ、一人の患者から何人に感染するかという指標となる。一人の患者から平均して二人に病気がうつると、基本再生産数は2となる。

新型コロナの基本再生産数

新型コロナウイルスは遺伝子が変異し異なるタイプが生まれ、基本再生産数は変異株ごとに異なる。

​米国では疾病予防管理センター(CDC)がパンデミック対策の基礎データとして新型コロナウイルスの基本再生産数を2.0から3.0と推定している。

​この数字をベースに計算すると、免疫化される集団の割合は0.5から0.67となり、住民の7割がワクチン接種を済ませる必要がある。

集団免疫に到達できないという意見

一方、サンフランシスコ地区だけで集団免疫に到達しても、他の地域で感染を抑え込めなければ、人の移動でウイルスが域内に持ち込まれる。

また、新型コロナウイルスはRNAタイプで、頻繁に変異を繰り返し、感染力の強いウイルスが生まれている(下のマップ、米国で広がる変異株)。

​カリフォルニア州は英国型変異株(B.1.1.7)が主流で感染者が増える要因となっている。
​今後、ワクチンをすり抜けるウイルス変異株の発生が予測され、集団免疫を維持できるのかが問われている。

出典: CDC

ワクチン忌避の問題

また、集団免疫に到達するのを阻害する要因としてワクチン忌避(vaccine hesitancy)がある。
宗教的または心情的な理由でワクチンの接種を躊躇する集団があり、ワクチン接種が進まない原因となっている。

​新型コロナウイルスのケースでは地域により際立った特性を示している(下のマップ、色の濃い部分:ワクチン忌避率が高い地域)。

​ワクチン忌避の全米平均が37%であるのに対し、サンフランシスコ地区は8%と極めて低く、これがワクチン接種率を押し上げる要因となっている。(カリフォルニア州やニューヨーク州など民主党基盤ではワクチン忌避率は低い。一方、ユタ州やノースダコタ州など共和党基盤ではワクチン忌避率が高い。)​

出典: CDC

ワクチン接種が身近になる

宗教や政治や信条によるワクチン忌避者を説得することは難しいが、ワクチン接種が進まないもう一つの理由は接種を受けるプロセスの複雑さにある。

​バイデン政権はこの問題を解決するために、全米で統一したサイトを開発した。
これは「Vaccines.gov」と呼ばれ、このサイトから自宅周辺の接種場所を検索し、そこでワクチン接種の予約ができる(下の写真)。

​今では、大型施設での集団接種だけでなく、薬局やスーパーマーケットで手軽に接種できるようになった。
​これでワクチン接種を躊躇する問題が解決すると期待されている。

出典: Vaccines.gov

全米で集団免疫を目指す

トランプ政権ではコロナ感染症対策の効果が上がらず、感染者や死者の数が急増し社会に危機感が広がった。
バイデン大統領が就任してからは感染防止対策が徹底し、また、ワクチン接種が急ピッチで進んでいる。

バイデン大統領はアメリカ独立記念日(7月4日)までに、国民の70%が少なくとも一回のワクチン接種を終えることを目標に定めた。

​集団免疫という言葉は使わなかったが、この目標を達成すると感染を抑えみ、普段の生活に戻ることができる。アメリカのコロナ感染症対策はバイデン政権で大きな転機を迎えた。

ワクチン接種を受けてみると・・・​

ワクチン接種の予約が取れない

実際に、二回のワクチン接種を済ませたが、ハプニングに見舞われながらも、米国巨大プロジェクトの機敏性を感じた。

ワクチン接種で苦労したのは予約の取得であった。
ワクチン接種の責任者がカリフォルニア州政府、地方自治体、病院など複数の団体にまたがっており、それぞれのサイトにアクセスし、空きスポットを探すこととなった。

​カリフォルニア州政府のサイトで予約待ちをしていたが回答は無く、最終的に、サンタクララ郡が運営するメガサイト(サンフランシスコ・フォーティナイナーズのスタジアム、下の写真)で1回目のワクチン(ファイザー)接種を受けた。(この問題を解決するため上述のVaccines.govが開発された。)

出典: VentureClef

ワクチン接種がキャンセルとなる

二回目のワクチン接種は21日後に同じサイトで予約していたが、サンタクララ郡から予約をキャンセルしたとの連絡を受けた。

理由はワクチン供給量の不足で、Kaiser Permanente(かかりつけの病院)がワクチンを”横取り”したので、そこで二回目の接種を受けるよう指示された。

​急遽、病院に問い合わせ、調整を重ねワクチン接種の予約が取れた。

出典: VentureClef

病院の特設テントで接種を受ける

病院は大量のワクチン接種を行えるよう、敷地内に特設テントを設け(一番最初の写真)、野戦病院と化して接種を進めた(上の写真)。

接種会場でワクチンの効用や副反応などの資料を手渡され、また、専任スタッフが質問に応じてくれた。
ワクチン接種のデータは病院の電子カルテに入力され、ホームドクターがこれを確認する手順となった。

​誰もが初めての経験で、失敗しながらも政府と民間が共同で大きなプロジェクトを推進するダイナミックさを実感した。