[No.49] NVIDIAは地球のデジタルツインで気候変動研究を進める、現行の数学モデルに代わりAIが台風発生を予測
NVIDIAは、今週、開発者会議「GTC 2022」をオンラインで開催した。
基調講演でCEOのJensen HuangがNVIDIAのAI研究の最新成果を発表した。
NVIDIAは科学技術向けメタバースである地球のデジタルツインを生成し、この3Dモデルで気候変動の研究を進めている(下の写真)。
NVIDIAは米国国立研究所と共同で、地球のデジタルツインで台風や集中豪雨の発生を予測するモデルを開発した。
数学モデルではなく、AIで気象の変化を予測することで、処理時間を劇的に短くすることに成功した。
現行の天気予報の仕組み
天気予報は、海洋や陸地の状態を数値予報モデル(Numerical Weather Prediction)で表し、これをスパコンでシミュレーションする手法となる。
具体的には、数値予報モデルに、現在の気象データを入力し、将来の値を計算することで状態の変化を予測する。
様々な数値予測モデルが使われているが、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)が開発した「Integrated Forecast System」がその代表となる。これは「欧州モデル(European Model)」とも呼ばれる。
米国のモデル
一方、米国においては、アメリカ国立気象局(National Weather Service)が開発した「Global Forecast System」が使われる。
これは「米国モデル(American Model)」と呼ばれ、米国内の天気予報で使われている。
一般に、欧州モデルのほうが高性能で正確な予測ができるとされる。一方、米国モデルは長期レンジ(最長16日先まで)の予測ができる点に特長がある。
両モデルともシステム規模が巨大で、これを実行するには世界でトップクラスのスパコンが必要になる。
AIで天気を予測する
これらに対して、NVIDIAなどが開発した予測モデルはAIを使って気象の状態を予測する。
この予測モデルは「Fourier ForeCasting Neural Network(FourCastNet)」と呼ばれ、短期から中期レンジで、台風(Typhoon)や集中豪雨(Atmospheric River)など、異常気象を予測することができる(下のグラフィックス、中段)。
FourCastNetは、短時間に高精度で天気を予測することができる。
欧州モデルに比べ45,000倍高速で予測することができる。
AIで予測する仕組み
現行の数値予報モデルは、数学モデルをスパコンで計算し、その解を求める手法であるが、FourCastNetはニューラルネットワークで気象を予測する。
ニューラルネットワークが過去の気象データを学習し、将来のイベントを高精度で予測する。
FourCastNetの教育では、ヨーロッパ中期予報センターの気象データ「ERA5」が使われ、10TBのデータでニューラルネットワークが教育された。
気象予測の事例
FourCastNetを使うと台風の発生を正確に予想できる。
実際に、FourCastNetは「Typhoon Mangkhut(平成30年台風第22号)」の発生を正確に予測した(上のグラフィックス)。この台風は、フィリピンや中国、香港などに甚大な被害をもたらした。
FourCastNetが予測する範囲はグローバルで、地球全体をカバーする(中央部)。
日本の南の海上でMangkhutが発生した(左側最下段)が、FourCastNetはこれを正確に予測した(左側中段)。
ModulusとOmiverse
FourCastNetは地球のデジタルツインに構築され(下の写真)、気象モデルをインタラクティブに操作できる。
デジタルツイン生成では「NVIDIA Omniverse」が使われ、スパコン「Earth-2」で実行された。
また、AIモデルは「NVIDIA Modulus」が使われ、AIで物理問題を解析するためのツールが揃っている。具体的には、変微分方程式(partial differential equations)を解くためのニューラルネットワークが使われた。
地球温暖化の研究
地球のデジタルツインを生成し、FourCastNetというAIモデルで気象予測を実行するのは、日々の天気予報を求めるためではなく、地球温暖化問題を解明する研究の一環となる。
現行モデルで気象予測を実行すると、スパコンを使っても長時間かかる。
これに対し、FourCastNetをEarth-2で実行すると、45,000倍速く予測結果を得ることができる。
つまり、数多くのモデルを並列して実行でき(下の写真)、地球温暖化対策の研究を効率的に進めることができる。