[No.180]国際連合はAIガバナンスに関する報告書を公開、OECD(AI基本指針)やG7(広島AIプロセス)など多国間協定を統括する役割を担う、地球温暖化とAIを最重要テーマと位置付ける

国際連合(United Nations)は先月、AIに関する包括的な報告書「Governing AI for Humanity」を公開した。

これはAIガバナンスをグローバルに展開するための意見書で、AIのリスクを認識し、世界の人々が利益を享受できるフレームワークを提言している。報告書は地球温暖化対策をモデルに、AIのリスクを査定するためのパネルの設置を推奨する。

国際社会ではOECD(AI基本指針)やG7(広島AIプロセス)など、AIを安全に管理するための枠組みの構築が進んでいるが、国際連合がこれらの活動を統括しグローバルなフレームワークを制定する。

出典: United Nations

報告書:Governing AI for Humanity

国際連合のAIに関する委員会「UN High-Level Advisory Body on Artificial Intelligence」は、先月、AIに関する報告書「Governing AI for Humanity」(下の写真)を公開した。

この報告書は国際社会を対象にしたもので、AIを倫理的に運用するための基礎データを示し、国際連合が取るべき政策を推奨している。

報告書は、AIは大きな可能性を秘めているとの見解を示すと同時に、AIの危険性やそれを運用するインフラが未整備であることを理解する必要があるとしている。

AIガバナンスに関する政策推奨

報告書は、国際連合に対して世界各国がAIガバナンスを推進することを求め、また、各国政府に対してはAI開発において国民の人権を守ることを求めている。

この目標を実現するために七つの提言をしている:

  • AIオフィス:これらのタスクを実行するために国際連合内にAIオフィスを設置
  • AIに関するパネル:AIを科学的に解析し共通の理解を持つための委員会。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のAI版を制定。
  • AIガバナンスに関する議論:国際連合はAIガバナンスに関する議論を進めるためのプラットフォームを設置
  • AI技術標準化:AI技術の標準化をグローバルに推進するための枠組み制定
  • AI開発インフラ:世界の研究者がAI開発を展開できるためのネットワーク整備
  • AI基金:世界でAIインフラを整備するための基金を創設
  • AI教育データ:AI教育データにおける技術標準化やプライバシーの保護
出典: United Nations

政策推奨の骨子

この提言は三つの骨子から構成され、1)共通の理解の構築:世界で展開されるAIに関し共通の理解を持つ、2)共通の立場の構築:世界で進むAIガバナンス整備を統括し共通の指針を整備、3)世界が共通してメリットを享受:世界でAI分断(AI Divide)が顕著になりこのギャップを埋めるためAIシステムを整備、となる。

AIリスクに関する認識

報告書は世界のAI開発や運用を解析し、それを共通の理解としてまとめ、政策を推奨するための基礎資料としている。

これらはグローバルなAIガバナンスに関する最新情報で、国際社会におけるAIに関する基礎データとなる。その一つがAIリスクに関する認識で、国際社会における懸念事項を理解できる(下のグラフ)。

最大のリスクは偽情報で情報操作によりメディアへの信頼性が低下するとしている。また、AI兵器が使われることや、AI技術が少数の企業や個人に支配されていることに、強い懸念を示している。

出典: United Nations

AIにより不利益となるグループ

AIの技術開発が進む中、報告書はAIの危険性が増大するグループや地域をリストしている(下の写真)。

これによると、社会的に排除されているグループ(Marginalized Communities、人種などにより差別されている集団)やグローバルサウス(Global South、アフリカやアジアや南アメリカなど)などがAIにより不利益を被るとしている。

特に、グローバルサウスは、これらの国々でAIを利用するインフラが未整備であり、インターネット・デバイドのように、AIデバイドが顕著になっているとしている。

出典: United Nations

世界各地のAIガバナンス展開状況

世界の主要国では安全なAIを開発運用するためのフレームワークの設立が進んでいる(下の写真)。国や地域がAIガバナンスのためのガイドラインや運用指針を制定しており、責任あるAI開発と運用を進めている。

その主なものは:

  • OECD AI Principles:経済協力開発機構が制定したAI基本指針
  • G20 AI Principles:G20が制定したAI基本指針
  • UNESCO Recommendations on the Ethics of AI: ユネスコが生成したAI倫理指針
  • G7 Hiroshima Process International Guiding Principles:G7の広島AIプロセス国際指針、高度な AI システムを開発する組織向けの国際指針
  • General Assembly:国際連合のAIに関する総会決議
  • Bletchley Declaration:英国政府のAIセーフティ宣言
  • EU AI Act:欧州政府のAI規制法

世界の主要国はAIガバナンスに関する取り組みを進めており、国際連合はこれらを総括し、共通の基盤を設立する役割を担う。

出典: United Nations

AI技術標準化を推進

世界各国のAIガバナンスを推進する母体はOECDやG20やG7やUNESCOなどの国際団体や国際会議となる。

この他に、EUや英国政府など地域連合や国がAI規制法の整備を進めている。また、AI技術の標準化についてはISO、IEEE、ITUなどが重要な役割を占める。また、米国においてはAI Safety InstituteやNISTなどがAIの安全技術を開発する役割を担う。

様々な団体がAI技術の標準化を進めており、報告書は国際連合が情報を共有するプラットフォームを構築し、技術標準化を推進すべきとしている。

出典: United Nations

AIガバナンスが喫緊の課題

国際連合の主要テーマは気候変動と破壊的技術(Disruptive Technology)で、特にAIのガバナンスを喫緊の課題としている。

先進国を中心にAIを安全に運用するための法令やガイドラインの整備が進んでいるが、国際連合はこれらを総括し、グローバルなフレームワークを制定することを最終目的とする。

国際連合は人権高等弁務官事務所(Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights)など人権の保護と啓蒙を推進する組織を持ち、これらのインフラをAIガバナンスに適用する。

国際連合は気候変動対策で重要な役割を担っているが、この成果を参考に、AIガバナンスにこの手法を適用し主導的な役割を担う。