[No.168]トランプ氏が大統領に再選される可能性が濃厚となる、新政権とシリコンバレーの関係が激変か、AI政策は大きく見直され規制緩和に向かう

トランプ氏は共和党全国大会で大統領候補の指名受諾の演説を行い、新政権が誕生する機運が高まった(下の写真)。

トランプ第二次政権が誕生するとアメリカの政策が激変する。新政権はAI政策を見直し、AI規制を緩和し、技術開発を優先する。

また、中国がAIなど先進技術にアクセスすることを厳しく制限し、AIのセキュリティを強化する。

また、トランプ新政権はバイデン政権のAIに関する大統領令を停止し、新たなAI政策を導入すると報じられている。トランプ第二次政権が誕生すると、アメリカのAI開発体制が大きく変わる。

出典: PBS

共和党シンクタンクの提言

トランプ氏や選挙陣営は政策に関する情報を公開していないが、共和党シンクタンクなどが取るべき政策を提言している。

これらを読むとトランプ第二次政権の政策の概要が見えてくる。共和党シンクタンクである「Heritage Foundation」はバイデン政権からトランプ政権に移行するための政策を公開している。

この提言書は「Project 2025」と呼ばれ(下の写真)、共和党が現政権を置き換えたとき、政権間の移行をスムーズに行うことを目的として開発された。

出典: Project 2025

提言の概要

Project 2025は、防衛、外交、福祉、産業など幅広い領域の政策を提言している。

ハイテクに関してはAIや量子技術を重要技術と位置付け、新政権が採用すべき政策を纏めている。アメリカが世界のリーダーとなることを基本思想としており、技術競争力を強化し、中国がこれらの技術を使うことを厳しく制限することを求めている。

Project 2025は政策だけでなく、新政権を支える人材の募集や教育プログラムについても提言している。

Project 2025は共和党の大統領候補者を対象に編纂されたが、トランプ氏の指針が色濃く反映されたドキュメントとなっている。

テクノロジーに関する政策

テクノロジーに関しては、AI、量子コンピュータ、次世代通信技術/5G、次世代製造技術、バイオテクノロジーに関する政策を提言している。

この中でAIに関しては、国家安全保障の観点から、中国を念頭に、AI先進技術を敵対国に輸出することを厳しく制限することを求めている。

また、AIなど高度な技術が盗用されることを防ぐため、安全技術の開発を求めている。

AI規制と開発に関する提言

Project 2025はAIの安全性を求めると同時に、技術開発におけるイノベーションを推進することを提言している。

これは「Tech-Neutral Approach」と呼ばれ、先進技術の開発を優先し、その規制は最小限に留めることを求めている。例えば、自動運転車の開発が進む中、クルマの安全性を担保しながら、技術規制を緩和すことを求めている。

AI開発においては、政府の規制を最小限に留め、開発企業による自主規制を推奨している。

基礎研究と商用化の役割

また、Project 2025は企業の負担を軽減するために、先進技術に関し政府と民間企業の役割を明確にするよう提言している。

先進技術の基礎研究は政府機関が担い、民間企業はこの成果を製品化するプロセスに注力する。政府機関の中で「Intelligence Advanced Research Projects Activity (IARPA)」が長期レンジの基礎研究を遂行しアメリカの技術基盤を支える。この成果を民間企業に移転し、新たなビジネスを開発する構造となる。

AIや量子技術の基礎研究を政府研究所が担い、民間企業の重荷を軽減する。

民主党と共和党のAI政策

Project 2025を読むと、民主党と共和党のAI政策に関する相違が明らかになる。

バイデン政権は、開発企業にフロンティアモデルの安全試験と情報共有を義務付けている。一方、Project 2025は企業の負担を軽減することを骨子とし、技術革新を生み出し、アメリカの競争力を強化することを提言している。

AIに関する規制を緩やかにし、AIモデルの安全試験については、企業の自主規制に委ねるとしている。

共和党は、AI規制に関し柔軟なポジションを取り、イノベーション重視し、規制を最小限に留め、自主規制に委ねることを骨子とする。

出典: ABC News

AIに関する大統領令

トランプ氏の側近を中心とする団体「America First Policy Institute」が、AIに関する大統領令を制作している(下の写真)。

アメリカのニュースメディアが報道した。トランプ新政権はAIに関するバイデン政権の大統領令を停止し、新たな大統領令を施行する。バイデン政権は大統領令で、AI開発企業に製品出荷前に安全検査を義務付けている。

一方、新たな大統領令は政府による規制ではなく、民間企業による組織を設立し、ここで検証試験を実施し、AIモデルの安全性を担保する。

また、AI技術が敵対国に流出することを抑止するための安全対策を実施する。

出典: America First Policy Institute

シリコンバレーとの関係

シリコンバレーの投資家はトランプ新政権のAI規制策を支持し、政権を支える姿勢を明らかにした。

バイデン政権の大統領令は、AI開発企業に安全検査を求め、これがスタートアップ企業にとって大きな負担となっている。スタートアップ企業を育成する投資家にとっては、規制緩和が技術開発を後押し、この政策を歓迎する姿勢を示している。

シリコンバレーは民主党と関係が深かったが、トランプ新政権でこの関係が逆転する。

トランプ陣営のポジション

これに対し、トランプ氏や選挙陣営はProject 2025やAmerica First Policy Instituteと距離を置く姿勢を示している。

トランプ新政権が政策の提言をそのまま受け入れることは無く、政策立案の過程でこれらの意見が参照される。

ただ、Heritage Foundationの提言は重みがあり、レーガン政権ではその多くの部分を採用したと伝えられている。

トランプ氏はAIに強い関心を示している

共和党全国大会での指名受託演説の中でトランプ氏はAIに言及した(下の写真、党大会の会場)。

AIは先進技術の中でも経済や安全保障に密接に関連し、アメリカの国力を決定する技術との認識を示した。更に、AIモデルの開発競争でデータセンタの規模が急拡大し、それを支える電力の供給がネックになるとの懸念を表明した。

トランプ新政権はAI開発のためのインフラ整備を進めることになる。

出典: Milwaukee Journal

AI政策はどうなる

AIを含むハイテク政策については、民主党と共和党の考え方が大きく異なり、両者で合意形成が難しい。

AI規制に関しては、民主党は政府が法令として規定する指針を取るが、共和党は民間企業の自主規制に委ねることを提言している。

今年からフロンティアモデルの出荷が始まるが、トランプ第二次政権が発足するとAI政策は大きく見直されることになり、どのような指針が導入されるのか注視していく必要がある。