国立大学法人 金沢大学 / 新学術創成研究機構 / 未来社会創造研究コア / 自動運転ユニット / 准教授 博士(情報科学)
米陀 佳祐 先生
2022年4月
近未来の交通インフラの主流として期待されている自律型自動運転自動車。
刻々と移り変わる環境をデジタルで解析、AIが瞬時に判断した内容を自動車へ伝えるには非常にシビアで複雑な演算処理が必要です。
AIによる自動運転の研究でこの分野の最先端を進み続ける金沢大学の取り組みを紹介しましょう。
金沢大学 准教授 米陀 佳祐 先生にお話を伺いました。
未来の社会インフラを支える研究開発
金沢大学は、1862年に創設された加賀藩彦三種痘所を原点に持つ、日本でも有数の歴史と伝統のある総合大学です。
現在はより柔軟な学びのシステムを確立するため、学部学科制から、学域学類制へ移行しており、近年の社会的ニーズに応えられる人材を輩出するための取り組みを続けています。
そんな金沢大学の中でも将来が期待されている研究所のひとつに「高度モビリティ研究所:計測制御研究室」があります。
ここで日々研究されているのが「自律型自動運転自動車」の社会実装へ向けた技術開発です。
「もともとは、一緒に教員を務めている菅沼 直樹 教授が1998年ぐらいから研究テーマとして始めた活動で、いまでは全学的な組織として学生たちも加わって開発を進めています」と説明する米陀先生。
その活動は地域はもちろん、国や地方の行政機関や民間企業を含めた多数の機関と連携する大きな取り組みへと成長を続けています。
「私の研究室では自律型自動運転自動車を動かすための技術、例えば車載センサーから得られるデータをどのように処理をしていくか、どのように処理されたデータを活かして実際に車を動かすにはどうすればよいかといった、自律型自動運転自動車単体を動かすために必要な技術開発をメインの研究テーマとしています」と米陀先生はいいます。
金沢大学 自動運転車の主な車載センサー
菅沼教授・米陀先生の研究室では実車としての自律型自動運転自動車を使った実証実験も行っています。
金沢大学のある石川県金沢市の市街地の走行実験や、奥能登にある珠洲市では地方型道路の走行実験が実施されています。
また、雪道を想定した環境での実験では北海道網走市において、路面が雪に覆われた状態の中、ミリ波レーダーを用いた精密走行の研究も進められています。
北海道 網走市での実証実験
「そのほか、内閣府で実施されている戦略的イノベーション創造プログラムの取り組みのひとつとして東京のお台場付近では大規模実証実験が行われています。エリアの各信号の状態を無線で発信できる特別な設備が備わっており、そのデータを活用した自律運転の検証にも参加しています」と米陀先生は語ります。
こうした実証実験で得たデータを活用し、さらなる安全性や快適性を高めていく取り組みが、米陀先生の研究室では繰り返されています。
東京臨海部での実証実験
研究室ではプログラミングやアプリケーション開発なども行いますが、自律運転のメカニズムの構築にはAIの存在が欠かせません。
そんな研究室で日々蓄積される巨大データの解析に使われるのが『NVIDIA DGX A100』です。
「自律運転の研究の中でもアルゴリズムを開発する部分と、NVIDIA DGX A100を使ってAIに学習させて解析していく部分の双方を研究テーマとしています。
最終的には車載できるようアプリケーションに落とし込んでいくのですが、その過程で様々なデータが蓄積されていきます。
さらにそれをAIで解析し、判断力を上げていく。そうやって自動車の自律運転能力が少しずつ向上していくイメージです。(米陀先生)」
研究を飛躍させる NVIDIA DGX A100 のデュアル構成
最初のNVIDIA DGX A100が導入されたのは2020年。同製品が発表されて間もないころでした。
「NVIDIA DGX A100に搭載されているNVIDIA A100 GPUはそれまでのTensor Core GPUと比べて格段に進化しているという手応えがあったので、研究に使うならこれだと考えていました。
その頃に研究室で取り組んでいたプロジェクトで予算が確保できたのでNVIDIA DGX A100の導入を決意したのです。」と米陀先生は当時の背景を語ります。
NVIDIA DGX A100の運用を始めた米陀先生は2022年に入り、さらにもう一台のNVIDIA DGX A100を導入した理由を語ります。
「1台目に不満があったということは一切ありません。研究の効率化にも大きく貢献してくれていましたし、学生たちもリソースを使ってスムーズに解析を進めていました。しかし、約2年の間、研究を進めたことで蓄積されたデータもまた膨大になり、さらなる解析に使えるリソースが不足していたのは確かです。(米陀先生)」
NVIDIA DGX A100での演算が間に合わない場合は、自分たちが普段使っているデスクトップPCやワークステーションを利用して解析作業に充てるなどの工夫をしてきましたが、そうなると日常でやらなければならない課題や作業なども滞りがちになります。
そこで同学ではサーバーのリソースを倍にして、さらに研究が加速できるよう、今回の導入に踏み切ったと言います。
「実は今回の2台目までは初期から導入を予定していました。最初に用意したラックとサーバールームに増設した電源ユニットは2台分用意してあったので受け入れ準備はすでに整っていました。想定内とはいえ、リソース不足が目立つまでになったので、ここでサーバーを追加することでさらに研究は加速していくと確信しています」と米陀先生は期待を語ります。
今回の導入に合わせてサーバールームと研究室間のネットワークの強化も行ないました。
「実はリソース不足の他にも、通信が原因ではないかと疑われるボトルネックもありました。NVIDIA DGX A100だけでなく、データベースも数百テラクラスのファイルサーバーで運用しており、一度に使うデータサイズも膨大です。
今回の導入を契機に 100GbE 回線に増強して、ネットワークストレージ装置とDGX A100間を接続させたので、ネットワーク帯域への不安も解消されるはずです。(米陀先生)」
すべての準備は整い、これから進化した新しい環境での研究がスタートします。
巨大データ群をスムーズに処理するNVIDIA DGXパワーに期待
2台のNVIDIA DGX A100による高速演算処理が可能になった計測制御研究室。
今後はどのような展望を持っているのでしょう。
「これまで数日かかったような演算は数時間で、数週間かかっていた演算は数日に短縮できるようになります。
時間の短縮が実現すればそれだけ多くのテーマについて考える時間ができますし、リソースも増えることから研究の幅も広がります。
したがって研究全体に弾みがつくことは間違いありません。また、これだけの環境があればいままでの自分たちのやり方とは違った研究の進め方ができるのではないかという期待もありますね」と明るい表情で語る米陀先生。
一方で研究に使っているコンピュータ全般まで視野を広げると、まだ課題はあるといいます。
「例えば、自律型自動運転自動車に搭載するコンピュータは、汎用のデスクトップPCをメインに使っています。
常に振動や揺れにさらされるため、寿命が短いのが難点です。
これまでも数年使っていたら、突然動かなくなるという経験が何度もありました。
高性能であることも必要ですが、車載用のコンピュータに関しては可用性が高い製品が欲しいですね。」と米陀先生は語ります。
「自律走行ができる自動車を研究していますが、今後も関連する省庁や企業,大学などと連携した研究に繋げていきたいですね。
現在でも環境を限定すれば実践投入できるシーンもありますが、課題はまだまだ山積しています。
自律型自動運転自動車が少しでも早く社会実装され、すべての人々のより良い暮らしのために役立てられれば、私たち研究者にとってそれ以上うれしいことはありません。これからも精一杯研究に励んでいきたいと思います。」と最後に米陀先生は語ってくれました。
GDEPソリューションズはこれからも金沢大学高度モビリティ研究所をバックアップしていきたいと考えています。
取材:GDEPソリューションズ株式会社
協力:菱洋エレクトロ株式会社
GPU導入事例 金沢大学様
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NVIDIA DGX A100
NVIDIA A100 Tensor Core GPU で構築された世界初の AIシステム
- GPU:NVIDIA A100 Tensor Core GPU[80GB] × 8基 搭載
- GPUメモリ:Total 640 GB
- 性能:AI で 5 petaFLOPS、INT8 で 10 petaFLOPS