[No.218]AIエージェントが半数の仕事を置き換える、同時に新たな職種が生まれる、AGI経済で生き残るためのスキルは「AGIトラスト最高責任者」
人間の知能を上回るAIモデルAGI(Artificial General Intelligence)は今年から来年にかけて市場にリリースされる。
これに先駆け、今年はAIエージェントの導入が急拡大し、企業はビジネスプロセスを自動化し業績を伸ばしている。同時に、AIエージェントは人間に代わり仕事を遂行するため、多くの職種がAIで置き換わる。
米国でレイオフが静かに拡大しており、社員の間で不安が広がっている。一方、AIエージェントやAGIにより新たな職種が生まれると期待される。
AGI経済の大量失業時代を生き延びるためにはどんなスキルを習得すべきか議論が白熱している。

ハイテク企業のレイオフが進む
ハイテク企業を中心にレイオフの波が広がっている。
今年は現時点までで、154社で74,408人が解雇された。Microsoftは5月に6,000人を削減し、6月には更に9,000人をレイオフすると発表した。
Googleは昨年、AI事業にリソースを集中するため、30,000人をレイオフすることを公表した。
自動車メーカーのFordは、ホワイトカラーの半数の仕事を削減すると述べ、市場に動揺が広がっている。(下のグラフ、レイオフのトレンド、赤色の棒グラフが解雇された人数を示す)

AIファースト雇用
主要企業が人員を削減する理由は、AIエージェントの導入で、ビジネスプロセスを自動化するためである。
AIエージェントが人間の仕事を代行でき、採用停止やレイオフの波が広がっている。スタートアップ企業の多くは「AIファースト雇用」という制度を導入し、採用で人間よりAIを優先する手法を実践している。
Eコマースサービス会社「Shopify」は新規採用において、人間ではなくAIを導入する政策を取る。
AIが職務が実行できないときに限り、人間の採用を許可する。募集要項には人間ではなくAIを採用することが記載される。

AIで置き換わる職種
AIにより多くの職種が置き換わるが、その中心はホワイトカラーの仕事となる。
事務職、顧客サポート、パラリーガル(法律事務職員)、マーケティング、アナリストなどがAIで置き換わる。特に、エントリーレベルの職種がAIで置き換えられるという傾向を示している。
仕事の経験が薄い大学新卒者が多大な影響を受けている。
米国は6月が大学卒業のシーズンで、今年は新卒者の多くが就職できないという事態が発生し、甚大な社会問題となっている。
マクロな雇用情勢
AIにより大量の職種が置き換えられるが、同時に、これを上回る数の新たな職種が生まれる。
世界経済フォーラムは最新のレポートで、2030年までの五年間のグローバルな雇用情勢についての予測を公表した(下のグラフ)。これによると、世界の労働者12億人の22%が影響を受け、AIやその他の技術で900万人が失業するが(左端、紫色の部分)、1100万人が新たに就職する(右端、緑色の部分)と予測している。
AIエージェントやAGIにより多くの雇用が生み出されることを示している。

新たに生まれる職種:最高経営責任者
米国においてAIエージェントやAGIが普及することで、新たに生まれる職種についての議論が広がっている。
AIエージェントによりビジネスが自動化されるが、モデルは人間の管理の下で職務を実行し、それを管轄するスキルやアウトプットを人間の嗜好に沿うよう最適化する役割が求められる。
AIエージェントは指示された内容に従って、コンテンツを生成し、また、タスクを実行する。一方、社員は仕事をこなす役割から、仕事を管理する役割に遷移する。
社員は数多くのAIエージェントを監視し、AIのアウトプットを検証し、公平で正確に職務を実行していることを監査する役割に代わる。人間は数多くのAIエージェントを運用管理する「最高経営責任者」の役割となる。

新たに生まれる職種:AIシステム責任者
AIエージェントなど自律的なAIシステムが社会に普及し、アルゴリズムが独自の判断でビジネスを遂行する。
この環境では、AIエージェントの実行結果を最終的に誰が保証するのかが問われる。
AIシステムがバイアスなく公正に稼働していることを検証する監査の職種が必要となる。また、AIシステムの判定ロジックなど、その挙動を企業経営者などに説明する”トランスレータ”が必要になる。
更に、AIエージェントが生成したドキュメントやプログラムが正しいことを確認しこれを保障する職種が生まれる。
監査法人が企業経営が公正に行われていることを監査するように、AGI経済ではAIモデルを監査する職種が創設される。
新たに生まれる職種:AIテックサポート
AIエージェントが正常に稼働し、問題があればこれを解決するAIエージェント専用のテックサポートが生まれる。
この職種は責任範囲が広く、AIエージェントのシステム設計やインテグレーションのほかに、トラブルシューティング、AIエージェントを最適化するためのファインチューニングなどの職務が必要になる。
AIシステムが正常に稼働していることを監視し、問題があればトラブルシューティングを行うAIテックサポートがシステムの運用を陰で支える。

新たに生まれる職種:AIデザイナー
AIエージェント・AGIの時代は、AIがコンテンツを生成し、そのテイストを人間が決定する役割分担となる。
人間はクリエイティブを生み出すのではなくそのデザインを担う。
具体的には、製品開発においては、AIエージェントがコーディングなどのプログラム開発を担い、人間はアーキテクチャやインターフェイスなどのハイレベルの設計を司る。
また、プロモーションビデオの生成では、AIがコンテンツを生成するが、人間は映画監督となり企業のビジョンにマッチした色付けをする。
人間がコンセプトやアーキテクチャを創造し、AIエージェントがそれに従って作業を実行するプロセスとなる。

大量失業時代を生き延びるために
AIエージェントやAGIにより大量の失業者が生まれることは確実で雇用対策が求められる。
UBIなどの生活保障に加え、新たに創設される職種に適用するため、社員のリスキリングが極めて重要なステップとなる。ポストAGIエコノミーでは、仕事の形態が大きく変わり、社員はAIエージェントやAGIを管理運営する最高責任者となる。
これら新たに生まれる職種に対応するため、企業や個人は新たなスキルを獲得する必要がある。
別の観点からは、AIによる大量解雇の時代で生き残るためには、AGI経済で生まれる新たなスキルを先読みし、これらを獲得することがカギとなる。