国立大学法人 九州工業大学 / 大学院情報工学研究院 / 物理情報工学研究系 / 助教
清水 文雄 先生
2022年8月
多くのアカデミアやビジネスの開発環境にGPUコンピューティングが使われ始めているのはご存じの通りです。
九州工業大学物理情報工学科で主に流体力学を扱っている清水文雄助教も、高性能グラフィックスを搭載したワークステーションを導入。その可能性を探る1人です。
今回は特別に清水先生に取材することができたので、どのような取組みをされているのかご紹介しましょう。
社会が必要としている研究結果を導くために
国立大学法人 九州工業大学は1909年に設立された私立明治専門学校を前身とし、様々な工業分野で多くの人材を輩出。
1949年に現在の国立大学の形に包括された歴史ある大学です。
日本の産業発展のために優れた人材を創造、育成することを基本理念とし、「質の高い教育」、「科学に裏付けられた融合技術や境界領域の創成」、「地域社会との連携と調和」、「USRを重視した運営」の4つの基本方針のもと、教育や研究を通して、次世代産業の創出・育成に貢献する工業系大学を目指しています。
「私は九州工業大学の中でも情報工学部 物理情報工学科に所属しています。同じ情報工学研究院の許 宗焄教授と共同で研究室を持ち、その中で流体力学を扱う流体グループの担当をしています」と語るのは清水文雄助教です(以降、清水先生)。
清水先生の分野は流体工学、混相流をベースに、サイホンやジェット、気液二相流や音響に関する研究が多いといいます。
「最近ではジェットといっても油圧回路のポペット弁やスプール弁といった繊細な部分で起こる噴流がどう全体に影響を与えているかといった研究をしています。また気液二相流では水槽の流れを解析するといった内容の研究もおこなっています」と清水先生は語ります。
産業界や社会から求められる研究成果はより、ミクロになっていく傾向があるという清水先生。
「ですから、近年の流体工学では実験ばかりでなくCFDシミュレーションによるものがほとんどです。そのため、それらのソフトウェアが扱えるコンピューターにはなるべく高性能なものが要求されるようになりました」と清水先生は語ります。
空気が流れる大気中に置かれた二次元円柱周りの圧力分布を示します。
流れによって発生した同心円状の圧力波が、時間経過とともに外側へと拡がっていく様子を捉えています。
外側を反射境界に設定すると,圧力波は境界面で反射され内側へと戻っていきます。
このように音響解析を行うには,±10[Pa]程のわずかな圧力変動を正確に捉える必要があります。
CPUで60分かかっていた演算処理が
GPU活用で1分に短縮!
近年の研究環境で大きく変化したのは、やはりGPUコンピューティングの可能性が広がったことだといいます。
「これまでは対応するソフトウェアがCPUに依存するものがほとんどでした。しかし、ここ数年でGPU対応のソフトウェアも増えてきたので、私たちとしても導入してみたいと考えるようになりました」と清水先生。
清水先生の相談を受け、GDEPソリューションズが提供したのは、NVIDIA RTX A6000を搭載したワークステーションです。
同モデルはプロセッサーにインテル® Xeon® W-2295プロセッサー(18core/3.0GHz[TurboBoost時最大4.6GHz])、メモリ128GB、ストレージ512GB NVMe SSD,2TB-HDDという基本スペックを持つ高性能ワークステーションです。
研究室にも設置しやすいサイズのタワー型筐体は、エアフローを最適化しつつ冷却性能を向上させるファン位置を設定してあり、長時間の演算処理でも安定した稼働が可能となっています。
また、タワー型筐体は拡張性も高く、将来のスケールアップなどにも対応できるなど、将来性も確かなモデルとなっています。
「このワークステーションを2台導入し、『XFlow』ソフトウェアでメッシュレス流体解析をおこなっています」と清水先生。
まだGPUコンピューティングに関しては始めたばかりという清水先生ですが、これまでの試行では十分な結果が出ているといいます。
「まだ基礎的な研究しか行っていませんが、それでもCPUよりも断然早い結果が出ています。その差でいうと、数倍どころか数十倍以上の差が出たケースもあったので、GPUコンピューティングの優位性は確かに実感できています」(清水先生)。
例えばこれまで解析終了まで3日掛かっていた計算が、GPUを使うと数時間になった例もあったといいます。
「GPUコンピューティングに関しては学生たちも一緒に取り組んでいます」という清水先生。
「これまではスケールのサイズを変更すると、さらに数日から1週間といったレベルで時間が必要でしたが、GPUを使うとすぐに結果が出てくるので研究効率は確実に向上しています」と同席してくれた修士2年の宮越達也さんも感想を語ります。
流体工学におけるGPU活用はこれから本格化
ただし、流体工学におけるGPUコンピューティングに関してはメリットばかりではなく、課題もあるといいます。
「確かに結果が出るのは早いのですが、その解析結果が正しいのか、今の段階ではやはり再検証は必要です。信頼していないわけではないのですが、これまでのやり方とは大きく異なるため、その整合性を試すためのパターンを増やしている状況です」と清水先生は語ります。
また、ソフトウェアに関してもすべての解析に対応しているわけではないので、いわゆる得手不得手が存在するのが課題だといいます。
「この計算には対応していますか、と問い合わせることも多いです。未対応の部分もまだまだありますし、現在のところはGPUとCPUのそれぞれ得意分野を分け合って研究を進めるしかありません」と清水先生は言葉を続けます。
「CPUとGPUの切り分けもぼくたちの仕事かなと思っています。それぞれに見合った内容の計算をさせて上手くはまれば効率は良くなりますから、その分トライアンドエラーが何度もできます。そういう意味でGPUコンピューティングには大きく期待しています」と学生の宮越さんは語ります。
また、清水先生の研究室ではコロナ禍を受け、ワークステーションをリモート接続できるようにしているそうです。
「コロナが落ち着いている状況のときには研究室に来ても問題ないですが、流行しているときはそういうわけにはいきません。ですから、学生がいつでも使えるようにリモート接続は許可してあります」と清水先生は語ります。
「自分がなかなか研究室にこられない状況のときでも計算結果を確認できるのでとても便利です」と宮越さんもその利便性について語ります。
地球の未来のための研究はこれからも続く
これまでの研究環境に加え、新しく高性能ワークステーションを導入し、GPUコンピューティングの優位性を確認した清水先生と学生達。
「清水先生の研究室でも様々なコンピューターが集まってきました。ぼくたちとしては研究内容によって、どのマシンを使えばよいのか選べる立場になってきたので、今後も最適な環境について試行錯誤してよい研究結果に繋げていきたいですね。これからはGPUを使う機会ももっと増えていくと思っています」と宮越さんは語ります。
「いま、社会全体で環境問題が注目されていますが、そこに役立てられる研究ができたらよいなと考えています。例えば気液二相流の解析で水槽内の循環、拡散がうまくコントロールできれば分布を均一にするなど、環境問題の解決に役立ちそうな結果が導き出せると思います。また、再生可能エネルギーを実現する際の低周波問題なども出てきていますが、それに対しても流体工学の研究は役立てられるはずです。
そういったものに対して、これまでの研究手法に加えてGPUコンピューティングが加わってくれればさらに研究は加速していくと思います」と清水先生は最後に語ってくれました。
GDEPソリューションズは、これからも九州工業大学と清水先生の研究室をサポートしていきます。
取材:GDEPソリューションズ株式会社
協力:菱洋エレクトロ株式会社
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